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イタリアの連立政権のリスク

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 イタリアでは、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」が連立政権樹立に向けた政策で合意した。

 両党は15%の均一税率や新たな社会保障の導入のほか、不評な年金改革を撤回することを提唱している。

 また、政府の政策草案とされているものによると、加盟国にユーロ離脱を認める域内での手続き導入が提案されているほか、2500億ユーロ(約32兆5300億円)のイタリア政府の債務を帳消しにするよう欧州中央銀行(ECB)に要請する方針が盛り込まれていた(WSJ)。

 イタリア政府の債務帳消しについてはのちに否定されたが、これとは別に共通政策議題として政府短期債発行が含まれていた。これは「mini-BOT」と呼ばれる政府短期債で、1ユーロから500ユーロまでの小額の額面となり、国債と言いながらも利息は支払われず、償還期限もない。また額面を政府が保証するという、いわば政府紙幣となる。

 ただし、ユーロ圏の法定通貨を発行できるのは欧州中央銀行(ECB)だけであることから、これは法定通貨ではないとしており、これは国債であっても政府債務には含まれず、財政赤字の3%ルールには該当しないというような、かなり強引な主張をしている。

 もちろんこれらの構想の背景にはイタリアの財政拡大が意識されている。そのためにはユーロ加盟国に財政赤字を3%以内に抑えるよう求められているルールや、ユーロ圏の法定通貨を発行できるのはECBだけというルールまですり抜けようとしているように思われる。

 日本でも一時政府紙幣の発行が取りざたされたことがあった。しかし、政府紙幣の発行となれば、政府の信用毀損による国債価格の暴落に繋がりかねない。過去の歴史を振り返れば、政府紙幣はいったん発行されればその信認を意識しての発行とはならず、乱発しての財政拡大によるインフレを招くことは必然となる。そもそも国債という借金を増やしたくないという責任逃れの発行ともなり、いったん発行されてしまうと財政規律などが意識されること自体考えられなくなる。

 イタリアの国債利回りが5月7日以降に急上昇したのは、「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」が連立政権樹立に向けた政策を意識したものであり、その象徴ともいえる「mini-BOT」の発行構想であったと思われる。

 政府紙幣の実現可能性はさておき、イタリアで誕生する新政権は、ユーロ圏に緊張を与えかねず、イタリアのユーロ離脱の懸念も強まる恐れもある。

追記

 両党は政策で合意したものの、2党が選んだユーロ懐疑派の財務相候補の起用をマッタレッラ大統領が拒否し、ポピュリスト2党の指導者は組閣を断念した。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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