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中国の習近平国家主席の発言で貿易摩擦懸念は、ひとまず後退

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 中国の習近平国家主席は10日、中国海南省で開催中の博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで演説し、「開放の新たな段階」を約束した。 演説は新政策をほとんど提示しなかったものの、輸入促進や製造業の外資保有制限緩和、知的財産権の保護拡大に向けた提案を確認ないし膨らませた。

 トランプ大統領はツイッターで、「関税や自動車障壁に関する中国の習主席の丁重な言葉に深く感謝する」と述べ、「知的財産と技術移転に関する見識」にも謝意を示し、「われわれは共に大きく前進する」と記した。(以上、ブルームバーグの記事より引用)。

 トランプ政権は3月23日に米通商拡大法232条に基づき、鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限を発動した。国内の鉄鋼・アルミ産業の衰退が「国家の安全保障上の脅威になる」として、一部の例外国を除き、鉄鋼は25%、アルミは10%の追加関税を課す。また、3月22日に1974年通商法301条に基づく対中制裁措置の発動を決定し、これにより情報通信機器や機械など約1300品目を対象に25%の関税を課すことになる。

 これに対して中国は4月4日に米国からの輸入品約500億ドル相当に25%の追加関税を課す計画を発表した。対象には大豆や自動車、化学品、航空機などが含まれた。米国のトランプ政権が打ち出した関税措置への対抗策といえる。

 これに対してトランプ大統領は5日に声明文を公表し、中国の不当な報復を踏まえて、1000億ドルの対中追加関税の検討を通商代表部(USTR)に指示したことを明らかにした。自分で仕掛けておきながら、やられたらやり返す、まさに貿易戦争を仕掛ける気なのかと市場は危惧した。

 このため10日の中国の習近平国家主席による発言が注目されていた。場合によると中国も態度をさらに硬化させて、貿易戦争がエスカレートするのではとの危惧も出て当然の状況となっていた。

 しかし、今回の中国の習近平国家主席の演説では、対抗措置といったものは出されず、新たな施策は出なかったものの、米国に配慮したような格好となっていた。

 トランプ大統領は演説等ではなくツイッターを利用して威嚇のような発言を繰り返すことで、市場はその真意が読み取れずにいた。ただし、以前にムニューシン財務長官が米政権が中国との間で建設的な対話をしていると発言するなど、米中の政府間で水面下の協議が進展しているのではとの観測もあった。

 貿易戦争がエスカレートして困るのは中国ばかりでなく、多少なり米国にも影響を与えかねない。それ以上に金融市場の混乱そのものが景気に悪影響を及ぼす懸念もある。当然ながら、ここにきての米国株式市場の動向などはトランプ政権も気に掛けていたのではないかと思われる。

 今回の中国の習近平国家主席の発言を見る限り、中国としても妥協点を探るような動きとなっているのではなかろうか。トランプ大統領の真意は読み取れないが、中間選挙を睨んで、公約は守っており、それによって米景気は上向いていることをアピールする狙いがあるとみられる。そのあたりも中国には見透かされている可能性もある。トランプ大統領が習近平国家主席の発言に、すばやく好意的な対応をみせたのも中国側の出方をある程度、読んでいた可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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