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AIは相場に勝てるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 3月2日に日本の債券市場が久しぶりに動きを見せた。日銀の大量の国債買入やイールドカーブコントロールによって国債の利回りは抑えつけられており、先物の日々の値動きは10銭に満たない日も多い。それにも関わらず2日の債券先物の値幅は60銭もあったのである。

 この日、日銀の黒田総裁は衆院議院運営委員会で所信の表明と質疑を行っていた。そのなかで「2019年度ごろに物価が目標とする2%に達すれば、出口を検討、議論していくことは間違いない」と発言した。

 債券先物はこの発言に反応したようである。現物債も売られ10年債利回りも0.040%から0.080%に上昇したが、債券先物に引っ張られた格好であり、何かが起きていたのは債券先物であった。

 黒田総裁は出口について言及すること自体、珍しいことではあったが、今回の発言はあくまで物価目標達成を前提にしたものであり、そうであれば出口を検討するのは当然のことであり、これで日本の債券市場の参加者が動揺することは考えづらい。

 ところが一部のベンダーが、この発言のフラッシュニュースのタイトルを「黒田日銀総裁:19年度ごろに出口を検討していること間違いない」としたことで、この英文の記事をみたのか、海外投資家が反応して売りを出したと思われる。国内投資家はこのタイトルを見ても債券先物を売らなければならないほどのものではないことはわかっていたはずである。

 この記事に反応したのは人間というより、コンピュータであった可能性が高いと思われる。日本の債券先物は値動きは鈍いものの、海外投資家による売買が盛んであり、株式の先物などで行われているコンピュータ使った自動取引、いわゆるHFT(High frequency trading)が債券先物にも入ってきている可能性がある。

 つまり発言者の重要性、発言の単語、使い方等が分析され、出口を封印していたとみられていた日銀が出口を模索していたとの結論に達してしまい、それをきっかけに債券先物に売りが持ち込まれたのではないかと思われる。

 債券先物は手口情報が公開されているわけではなく、絶対にHFTによる売りとは断言できないものの、あのタイミングで債券先物を売るのは他に考えづらい。

 これだけで判断するのもいけないかもしれないが、コンピュータを使ってのAI取引と言われるものが、こういった発言に反応してしまうとすれば、やはりスピードだけでは人間の判断力には勝てないのではなかろうか。このような事例を積み重ねれば精度は上がるかもしれないが、相場はやはり人が動かしている以上、複雑な人間心理まで読み込んで、機械が相場を張ることは困難ではないかと思う。自分が相場を張っていたときも、機械的な判断よりも直感に頼っていた。その直感をAIが果たして持てるのだろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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