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日銀総裁・副総裁人事の行方は不透明

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 安倍首相は4月8日に任期満了となる日銀の黒田総裁を続投させる人事案を月内にも国会に提示する。複数の政府関係者が明らかにしたと9日に日経新聞が報じた。

 黒田総裁の任期は今年の4月8日だが、その前に岩田規久男副総裁と中曽宏副総裁が今年の3月19日に任期を迎えるため、首相は執行部と呼ばれる総裁と副総裁2名の人事をまとめて国会に提示するとみられる。

 これまで次期日銀総裁人事として黒田総裁の続投との予想が多かったことや、政府や市場にとっても最も安全策であるようにみえることで、市場は特にこのニュースには反応薄となっていた。しかし、本当に黒田総裁が続投となるのかもまだ予断を許さない。

 黒田総裁は仮に続投となっても、任期途中で交代するであろうとの観測も出ていたように、本人としてはそれほど積極的に再任は望んではいないのではなかろうか。しかし、選択肢としては黒田総裁の続投以外では考えづらい面もある。官邸や財務省、日銀そしてマーケットにとっても最も無難な線となるのが黒田総裁の続投となる。個人的には中曽副総裁の昇格という選択肢もあると思うが、その可能性は薄いように思われる。

 本当に黒田総裁が続投となるのかはまだ予断を許さないと見ている理由は、黒田総裁本人の意志がどうなのかという点とともに、副総裁人事も絡んでくる。黒田総裁続投となれば、副総裁のうちの一人は日銀プロパーとなることが予想される。そうなると報じられているように異次元緩和の功労者ともいうべき雨宮理事の副総裁昇格の可能性が高い。

 2013年3月19日に日銀の白川方明総裁(当時)は4月8日の任期を待たず退任した。これは正副総裁が同時に3月20日から就任できるようにするためのものであった。黒田総裁は2013年3月20日に就任したが、この際には翌月の4月8日でいったん任期満了となり、あらためて2013年4月9日に就任した格好となっており、このため総裁の任期は5年後の今年の4月8日となっている。

 2013年3月19日に日銀総裁に黒田氏が就任したわけだが、日銀は金融政策ばかりしているところではない。金融政策は日銀業務のほんの一部にしか過ぎない。そのトップに日銀外から就任したわけであるから業務の把握、挨拶回り等々を考慮すれば、4月4日にあらたな金融政策を決定するのは時間的に無理があると個人的にみていた。しかし、結果的にこの短期間で量的・質的緩和政策を決定することになる。これは雨宮理事がかなり貢献していたであろうと推測される。その雨宮理事が副総裁の有力候補となっている。

 問題はもうひとつの副総裁の椅子となる。現在の岩田副総裁は一応学者枠ともいえるが、財務省出身の総裁と日銀プロパーの副総裁、そして学者というかエコノミスト的な立場の副総裁がバランスが良い。しかし岩田副総裁はリフレ枠でもあったようで、官邸もリフレ積極論者を岩田副総裁の後任に据えたいとされている。ここに問題がある。スイス大使の本田悦朗氏の名前も挙がっているが、黒田氏と反りが合うとは到底思えない。かといってリフレ派でほかに適当な人材も見当たらない。そもそもリフレ派に絞ること自体がおおいに疑問が残る。

 それを言ってしまえば結果としてリフレ派の主張を取り入れて大胆で異次元な、本来は非常時の金融緩和をおこなってきたにも関わらず、物価目標は達成できず、異次元の緩和を拡大したり、いろいろと付け加えた金融政策を作り上げた方々が続投すること自体にも問題があったように思う。

 それはさておき、もうひとりの副総裁人事が今後ネックとなってくる懸念もある。リフレ派などに絞り込まず、金融政策には中立的な学者あたりから選出してもらうのが一番良いはずだが、いまの官邸はそんな意見には耳を貸さないのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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