異次元緩和の見直しを行うことも必要に
10月19日の米国ニューヨーク連邦準備銀行主催セントラルバンキングセミナーにおける中曽日銀副総裁の講演の邦訳が日銀のサイトにアップされた。何故、日銀は物価目標を達成していないのか、それについて下記のような説明があった。
「日本の場合、米欧に比べ、インフレ期待は、現実の物価上昇率に応じて「バックワード・ルッキング」に形成される要素が強いとされています。そうした中、2014年夏以降の原油価格の大幅下落や、2015年から2016年にかけての新興国経済の減速と、それに伴う国際金融市場の不安定化などにより、現実の物価上昇率が低下し、それに引きずられてインフレ期待も低下しました。日本銀行は、人々の間に定着したデフレマインドを抜本的に転換し、インフレ期待を2%にアンカーすることを目指していますが、これはなかなか困難を伴う作業です。」
日本人が将来の物価の予想をする際に足元物価の影響を受けやすいとの説明であるが、これは日本人に限らず、人々が予想をする際には足元の現状を意識せざるを得ないのではなかろうか。長期にわたり物価が上がらない状態をみていれば、将来の予想も当然その予想の延長とならざるを得ない。そんな将来のビジョンを日銀が大胆な緩和を行えば変えられるというのが異次元緩和の趣旨ではなかったのか。
それが変えられなかったのは何故か。原油価格の変動が消費者物価に大きな変動を及ぼすことは、日銀が最もわかっていたことであるはずである。原油価格や新興国経済の減速に原因を求めること自体、物価に対する人々の見方が異次元緩和の前と後ではほとんど変化していなかったことを示すものともいえるのではなかろうか。
中曽副総裁は消費増税の影響に触れていなかったが、リフレ派はこの消費増税がデフレマインドを変えられなかったとしている。消費増税がなければ2%の物価目標が達成されたともは立証できるものではない。
いずにしても日銀の異次元緩和は、人々の物価観を大きく変えるために行われたはずである。それが通常の物価抑制要因で達成できなかったと説明されている以上、人々の間に定着したデフレマインドを抜本的に転換する作業は、中央銀行の金融政策で何とかなるものではないことを、日銀は4年以上の年月を掛けて証明したとは言えまいか。
その間に日銀は更に深入りし、長短金利操作付き量的・質的緩和というバベルの塔のような緩和策を積み上げていった。すでにステルステーパリングといったかたちで修正は行われているが、マイナス金利政策の修正を含めて、異次元緩和の見直しを行う時期に来ているのではなかろうか。