欧米の長期金利は再度上昇か

(写真:ロイター/アフロ)

 ここにきて欧米の長期金利が再び動意を見せつつある。日本の長期金利は日銀の金融政策に抑え込まれているとはいえ、欧米の長期金利の動向に多少なり影響を受けることから、この欧米の長期金利の動向も注意しておく必要がある。

 日米欧の長期金利の推移をみてみると、7月7日あたりをピークに低下基調となっていた。この7月7日に10年債利回りは0.105%まで上昇し、0.110%で指し値オペが実施された。つまり日銀が国債利回りの上昇を抑制させたことがひとつのきっかけと言える。

 ただし、日銀の指し値オペで米国債が買われることはない。米国債が買われて利回りが低下したのは、7月11日の米下院金融委員会の公聴会で、FRBのイエレン議長は「FOMCは向こう数か月、インフレの動向を注視していく」と指摘したように、米国の物価の低迷が背景にあろう。今月のFOMCでバランスシート縮小を決定する可能性を市場はかなり織り込んでいるが、年内追加利上げに関しては不透明感を強めている。

 ECBも正常化に向けた動きはかなり慎重となっており、ドイツの10年債利回りも7月14日あたりから低下基調となっていた。

 足元の物価が低迷し、FRBやECBの物価目標を下回っていたことで、それぞれ正常化に向けた動きが慎重になるのではとの思惑も働いた。そこに北朝鮮の核実験やミサイル発射により、地政学的リスクが意識され、米国では大型ハリケーンの被害なども警戒され、リスク回避の動きが出た。このため、7月に2.3%台となっていた米長期金利は2.0%近くまで低下したのである。

 ところが9日の建国記念日を迎えた北朝鮮がミサイル発射などの挑発行為に出なかった事や、フロリダ州を直撃したハリケーン被害が警戒されたほど大きくないとの観測から、リスク回避の巻き戻しの動きが強まった。13日の米長期金利は2.20%近辺に戻してきている。ドイツの長期金利も7月の0.6%近辺から8日に0.3%近辺に低下後、12日には0.4%近辺に上昇した。英国の長期金利も7月に1.3%台まで上昇していたのが、9月7日に1%割れとなった。その後12日には1.1%台に上昇していた。

 12日に英国立統計局が発表した8月の英CPIは前年同月比2.9%の上昇と5年超ぶりの水準となり、イングランド銀行の利上げ観測が再燃したことも英国の長期金利の反発要因となっていた。

 北朝鮮リスクは完全に後退したわけではないが、少なくとも米国との軍事衝突という最悪の事態は回避されるであろうとの見方が強まった。今後は9月19、20日のFOMCを控え、再び中央銀行の金融政策の行方が注目材料となることも予想される。

 ここにきてのマインド変化にはECBの動向も影響している。9月7日のECB政策理事会では、金融政策の現状維持を決定したが、市場が注目していたのは、量的緩和縮小に関するドラギ総裁の会見内容となっていた。ドラギ総裁は「決定事項は多く、複雑で、向こう数週間、もしくは数か月で現実化する可能性のあるリスクを考慮するため、特定の期日の指定を巡り慎重さが出ている。大方、こうした決定の多くは10月になされる」と発言していた(ロイター)。

 この発言について市場は、ドラギ総裁は量的緩和縮小に関してかなり慎重と捉えた。しかしその後、7日のECB理事会では資産買い入れ縮小とすることで幅広い合意に達したとあらためて報じられた。量的緩和縮小に関してはすでに話し合いが行われ、10月のECB理事会で決定されるであろうことが再認識された。悲観的なマインドが強まっているときとそうでないときでは、同じ発言でも市場のとらえ方が異なることがある。ECBの動向は当初、長期金利の低下要因にみえたが、その後は上昇要因として意識されたように思われる。

 問題は米国となる。今月のFOMCでは資産縮小に向けた決定がなされると予想され、正常化に向けた動きが一段と進むことになる。ただし、12月のFOMCでの追加利上げが可能なのかは依然不透明であり、フィッシャー副議長の辞任も少なからず影響を与えよう。どの程度までの物価水準を容認するのか、9月のFOMCは議長会見も予定されていることで、イエレン議長の会見内容も今後の日米欧の長期金利の動向に影響を与えてこよう。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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