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ハリケーンが米国の債務上限問題を進展させる結果に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国のトランプ大統領と議会指導部はハリケーン「ハービー」の被害救済法案に、12月15日までの債務上限引き上げと政府運営資金の確保を抱き合わせることで合意したと伝えられた。

 テキサス州を直撃した大型ハリケーン「ハービー」は、進路に当たる地域に甚大な被害をもたらした。テキサス州のアボット知事は今回の被災地域は2005年の「カトリーナ」襲来時よりも大きいと述べていた(NEWSWEEK)。

 このハリケーンの被害救済が米国の政治に思わぬ影響を与えることとなった。今回のハリケーンの被害を受けて、トランプ政権は145.5億ドルの補正予算を議会に要請することとなり、うち78.5億ドルを2018年度の暫定予算に組み入れる方針と伝えられた。

 トランプ大統領は8月22日のアリゾナ州フェニックスで開かれた支持者の集会で、政府を閉鎖しなければならなくても壁を建設すると述べた。これにより政府閉鎖への懸念が強まった。もうひとつの問題がここに絡む。債務上限問題である。財務省は9月29日までに議会に債務上限の引き上げを要望している。いずれの法案も上院を通すには民主党の一部が支持しなければ可決できない。ここに民主党が反対するメキシコ国境の壁建設の予算を強引に求めると、かなりこじれ、政府機関の閉鎖やデフォルトが現実味を帯びてきたのである。

 しかし、ハリケーン「ハービー」による緊急事態に対処するため、ここで議会が動き、トランプ大統領も強行な発言を控えてきた。被害対策の補正予算を通すため、それぞれ妥協の必要が出てきたといえる。ここで主義主張を振りかざしては、国民からの批判がより強まることも予想されるためである。

 その結果が12月15日までの債務上限引き上げと政府運営資金の確保を抱き合わせることでの合意である。ただし、これは野党である民主党指導部が明らかにしたものである。

 共和党指導部と民主党指導部との会合で、共和党の指導部は18か月の債務上限引き上げを要請し、6か月引き上げ案も可能性として挙げた。しかし、民主党のペロシ下院院内総務、シューマー上院院内総務の両氏は6か月引き上げ案を拒否し、債務上限3か月の引き上げ案を出していた。

 ムニューシン財務長官ら共和党メンバー全員が、より長期間の債務上限引き上げを支持したが、トランプ大統領は結果として野党・民主党の債務上限3か月の引き上げ案を受け入れた格好となったのである。

 ちなみに上院(定数100)での可決には60の賛成票が必要となるが、上院の共和党議席は52で、民主党の一部が支持しなければ可決できない。

 共和党のライアン下院議長は民主党案に強く反発していたようだが、補正予算を早期に通すためには、民主党案をのまざるを得なかったことも確かであろうが、これでまたトランプ大統領と共和党の議会首脳部との間に溝が拡がった可能性もある。しかし、市場で懸念されていた政府機関閉鎖の懸念とデフォルトの懸念がひとまず後退したことも確かである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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