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米国の政府機関閉鎖の懸念と債務上限問題

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領は8月22日のアリゾナ州フェニックスで開かれた支持者の集会で、政府を閉鎖しなければならなくても、壁を建設すると述べた。

 議会は会計年度が終了する9月末までに、新年度の歳出法案を成立させなければならない。しかし、議会で合意が得られない場合には、つなぎ予算案を承認しつつ、新年度の本予算の協議を続けることになる。今回のそのケースとなる可能性が高い。しかし、つなぎ予算と本予算のどちらも折り合いがつかないとなれば、政府機関の閉鎖という事態が発生する。

 政府機関閉鎖は過去何度か起きた。直近では2013年10月にオバマ前政権の医療保険制度改革法(オバマケア)向け支出を巡り、ねじれ状態となっている米国議会で次年度予算が成立せず、与野党の対立が解けないまま、およそ18年ぶりとなる政府機関の一部が閉鎖される事態が発生した。

 米国のムニューチン財務長官やポール・ライアン下院議長などは「連邦政府機能の一部閉鎖」という事態は発生させないと主張したものの、22日のトランプ大統領の発言により、政府閉鎖の可能性が現実化しつつある。

 トランプ大統領は選挙公約にメキシコ国境の壁建設を掲げていたが、2018年度の歳出法案には、この建設費用は含まれていない。上院(定数100)での可決には60の賛成票が必要となるが、上院の共和党議席は52で、民主党の一部が支持しなければ可決できない。

 そしてもうひとつの問題がここに絡む。債務上限問題である。財務省は9月29日までに議会が債務上限を引き上げてくれることを要望している。ただし財務省には緊急時の予備財源があり、デフォルトが起きるのは早くて10月半ば以降になる。

 いずれの法案も上院を通すには民主党の一部が支持しなければ可決できない。ここに民主党が反対するメキシコ国境の壁建設の予算を強引に求めると、かなりこじれ、政府機関の閉鎖やデフォルトが現実味を帯びる。

 トランプ大統領は高い支持を得ている退役軍人関連の法案に、債務上限引き上げ措置を盛り込むよう議会の共和党指導部に求めていたが、共和党上院院内総務と下院議長は両法案を抱き合わせにしない決定を下した。

 メキシコ国境の壁建設の費用を予算で捻出するため民主党からの賛同者を売るのは極めて難しい状況にある。トランプ大統領が壁抜きで共和党のまとめた予算案を受け入れず、拒否権を行使すれば、政府機関が閉鎖されるだけでなく、共和党議員との対立姿勢を強めることも予想される。今回は政府機関閉鎖が解かれる状況も見づらくなる。何らかの妥協が求められるがトランプ大統領がそれを行えるのかが注目点となろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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