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約3京9000兆円の金融商品に関わる指標、LIBORの消滅問題

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 英国金融管理庁(FCA)のベイリー最高経営責任者(CEO)は7月27日、ロンドン市内で講演し、短期金利の国際指標であるところのロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を2021年末に廃止する方針を明らかにした。

 LIBORとは「London InterBank Offered Rate」の略で、一般的には民間組織の英国銀行協会(British Bankers Association)が複数の銀行の金利を平均値化して、ロンドン時間午前11時に毎日発表するBBA LIBORのことを指している。金融自由化の流れの一環として、1986年に現行方式がスタートした。

 米ドルだけでなく英ポンド、日本円、ユーロ、豪ドル、ニュージーランドドル、スイスフラン、カナダドル、デンマーククローネの9通貨について発表され、歴史もあり短期金利の重要な指標となっている。

 LIBORは、英国の住宅ローンや預金金利などに直接影響する金利であるともに、国際的な融資などにおける国際金融取引の基準金利として、またスワップ金利などデリバティブ商品の基準金利としても利用されている。世界で350兆ドル(約3京9000兆円)余りの金融商品のグローバルな指標金利として利用されてきた。

 そのような重要な指標が何故、廃止されるのかといえば、LIBORをめぐっては、2012年に欧米主要金融機関が金利を不正操作していた問題が発覚したためである。

 そもそもの発端は2008年4月にウォールストリート・ジャーナルが、LIBORがもはや信頼できないかもしれないとの懸念を銀行家やトレーダーが抱いていると報道したことによる。これを受け、英国銀行協会(BBA)が調査に乗り出した。  英米当局は1年以上にわたる捜査で、バークレイズが2005~2009年に虚偽申告を繰り返し、経済の実態とかけ離れてLIBORを上げ下げしたと結論づけた。この調査では、バークレイズのトレーダーがLIBOR担当者に「1か月物と3か月物の数値をできる限り高くしてほしい」と頼んだメールも見つかったようだが、それとは反対に銀行協会に申告する数字が他行よりも高いことを経営陣が嫌がり、実態に比べて低い数字を出したケースもあったようである。これはサブプライム問題等からリーマン・ショックにいたる間、金融機関への懸念が極度に高まり、銀行数字が高いのは経営不安の裏返しだと市場に解釈されるのを恐れたためとみられる。

 2016年7月にロンドンの刑事法院の陪審は、詐欺罪に問われたバークレイズの元トレーダーら3被告に有罪の評決を下した。

 今後、5年間の間にLIBORは段階的に廃止される予定で、新たな取引の基準となる別の指標金利を見いだす必要がある。金融機関などではシステムそのものへの修正も余儀なくされることが予想される。いまのところ大きな混乱は出ていないものの、今後の動向には注意が必要となろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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