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中期国債利回りが日銀の絶対防衛ライン?に接近中

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ここにきて債券市場は膠着感をさらに強めているが、その膠着相場のなかにあって中期ゾーンの国債がじりじりと売られている。債券先物は150円台後半でしっかりしているように、総じて債券相場は堅調ななか中期債、特に2年債が売られている。

5月当初はマイナス0.200%台となっていた2年国債の利回りは本日一時マイナス0.100%まで売られた。また5年債利回りも5月当初はマイナス0.160%あたりだったのが、本日入札を控えていることもあり、マイナス0.080%とマイナス0.1%を割り込んでいる。債券は利回りと価格が反対に動く事に加え、マイナス金利となっていることで、ややっこしいが、マイナス金利幅が縮小していることは利回りが上昇していることになり、利回りが上昇しているということは価格は下落していることになる。

2年債のマイナス0.100%という水準は昨年11月16日につけたマイナス0.095%以来の水準となる。その翌日の11月17日に日銀は初の指し値オペを実施した。しかもその対象に2年債と5年債が入っていた。日銀の指し値オペとは金利上昇を抑制するために行われる。つまりそのような水準までここにきて2年債と5年債利回りは上昇してきたといえる。なぜ昨年11月17日に日銀は指し値オペを実施したのかを振り返ってみたい。

日銀は2016年11月17日に初の国債の指し値オペをオファーした。この目的は何かと問われれば、トランプ相場によるところの米長期金利の上昇を受けての日本の国債利回り上昇の抑制となる。

日経QUICKニュース社の取材に答えた日銀の金融市場局の担当者は、指し値オペの実施を初めて通知したことについて「短中期の金利の急速な上昇を踏まえたもの」とした。

黒田日銀総裁は17日午前の参院財政金融委員会で、米金利の上昇につれて日本の金利に上昇圧力がかかる中、長短金利を操作目標としたイールドカーブ・コントロール政策の下では、日本の金利上昇を容認することはないと語った(ロイター)。

日銀が17日は20年国債の入札日であるにも関わらず、異例の国債買入、しかも初の国債の指し値オペをオファーした背景には16日の債券相場の動きがあった。10年債利回りは16日の引け後にプラス0.035%まで上昇し、2年債利回りはマイナス0.095%、5年債利回りはマイナス0.040%に上昇したのである。

日銀によるオペの指し値が、2年利付国債370回の買入利回りでマイナス0.090%、5年利付国債129回の買入利回りはマイナス0.040%とまさに16日に売り込まれた水準近辺であった。

17日の初の国債指し値オペの応札はゼロとなった。実勢利回りが指し値よりも低下したためのことではあるが、これで2年債と5年債の利回りの下値の防衛ラインが意識されることとなる。2年債利回りでマイナス0.090%、5年債入利回りでマイナス0.040%の指し値オペの水準もしくは、日銀の超過準備の一部に掛かるマイナス金利、つまり付利のマイナス0.1%がある意味、日銀の防衛ラインともいえる。

ここにきての中期債の利回りの上昇は、海外投資家からのニーズの低下で需給そのものが緩んできたためともいえる。その背景には地銀などが海外の国債投資を抑制しつつあることで、ドルの調達ニーズの後退なども影響している可能性がある。つまり外的要因よりも需給に絡んでの利回り上昇といえる。

昨年11月の指し値オペは利回りの水準というよりも、日銀関係者の発言などから上昇ピッチの速さを意識していた可能性もある。今回のような緩やかな利回り上昇であれば、日銀は無理やり押さえ込むようなことをしてくるのかどうかは疑問である。ただし、一応防衛ラインともいえるマイナス0.1%に近づいたことで指し値オペの警戒とともに、付利の水準を下回ると押し目買いも入るとみられ、いったん利回り上昇にブレーキが掛かることが予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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