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何故、このタイミングで安倍首相と黒田日銀総裁が会談したのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

日銀の黒田東彦総裁は17日に首相官邸で安倍晋三首相と会談した。黒田総裁が首相官邸に首相を訪ねるのは1月11日以来、4か月ぶりとなる。黒田総裁は会談後、記者団に「金融緩和をしっかり続けていくとだけ申し上げた」と明らかにした。「首相から特別の注文はなかった」とも述べた(日経新聞電子版)。

5月には金融政策決定会合の予定はない。首相から何かしら要請されるような状況でもない。今回は前回の会談から4か月経っており、首相のスケジュールと黒田総裁のスケジュールが空いたところで定例とも言える会談が設定されたと思われる。黒田総裁も首相との会談について「定例的なもの」とあえて強調していた。

官邸側としても日銀の金融政策で物価目標が達成されておらずとも、今年1~3月期のGDPが年率プラス2.2%の成長率と5期連続でプラスになるなどしており、あえて追加緩和を要求するようなことは考えづらい。むしろ物価が上昇しない、つまり金利も超低位のなかでの経済成長は政権にとっても好都合のはずである。ここで物価が2%に向けて急上昇し、長期金利も上昇するようなことになると、財政面への影響が出てくることも予想される。その意味ではいまの環境は政権にとっては好環境とも言えよう。

しかし、そうはいっても日銀が首相の意向を汲んで、異次元緩和を行っているという事実は残る。しかもそれで物価は上がってこないということも露見した。そもそもアベノミクスと称された政策の根底、つまり異次元緩和で物価を上げてデフレ解消との前提に大きな間違いがあったものの、いわば結果オーライといった事態となっている。

それでもいまの日本が危機的な状況にあるわけでもなく、景気が落ち込んでいるわけでもないにも関わらず、非常時の以上金融政策を長らく続けてしまっているということも事実である。それはそれで潜在的なリスクが膨らんできていると見ざるを得ない。本来であれば、ステルステーパリングとかではなく、妙なかたちで積み上げてしまった金融緩和政策の修正を図り、将来のリスクを取り除くことが求められてしかるべきであろう。

しかし、異次元緩を押しつけたのが現政権であり、自らの政策の根底が間違っていたことを認めるようなことも現在の日銀はしづらいというか、できないであろう。少なくとも政権が代わり、リフレ政策に疑問を持つ首相でも就任しない限り、現在の状況は継続することが予想される。そのあたりを暗黙のうちに確認したのかもしれない。

ただし、日銀が国債を持てばその分の政府債務はカウントされない、などとの考え方がいかに危険なものであるのか。その危険性が試される日が来ないとは言い切れないことも確かである。そのあたりのリスクを日銀と官邸が共有しているようには見えないことも危惧すべき問題と思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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