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4月に地銀などが米国債やフランスの国債を過去最大規模で売り越しか

久保田博幸金融アナリスト
財務省の国際収支の付表のデータを基に作成

5月11日に公表された4月の対外対内証券投資売買契約の状況によると、居住者による対外債券(中長期債)投資は4兆2559億円の処分超となり、月次の売り越し額としては過去最大規模となったようである。

「4月の対外対内証券投資売買契約の状況」財務省

http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/itn_transactions_in_securities/month.pdf

11日の発表には国別の状況は記載されておらず、これは6月に公表される国際収支の付表で確認するほかない。

国際収支の付表がアップされるサイト

http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/release_date.htm

上記のサイトでは3月の数字まで確認できるが、対外証券投資(中長期債)に関しては、昨年11月までは全体での買い越しが続いていたのが、12月に2兆1136億円の売り越しとなり、今年1月も1兆2593億円の売り越し、2月が2兆1164億円の売り越しと大量の売り越しが続いていた。3月は3727億円の売り越しとなり、売り越し額は減少していた。

昨年12月からの売り越しの内訳を「主要国・地域ソブリン債への対外証券投資」で確認してみると12月は米債を2兆3894億円、フランスの債券を1483億円売り越していた。1月は米債を1兆6298億円、フランス国債を1894億円売り越し、2月は米債を1326億円、フランス国債を1兆5180億円売り越し。3月は米債は1兆398億円の買い越しとなっていたが、フランス国債を9428億円売り越していた。

フランスの10年債利回りの推移をみると、昨年11月の米大統領選挙を受けての米10年債利回りと連動するかのようにフランスの10年債利回りも上昇してきた。米大統領選挙前に0.5%割れとなっていたフランスの10年債利回りは、今年1月末に1%台に乗せてきた。米10年債利回りが12月のFOMCでの利上げ決定を受けていったんピークアウトしていたにもかかわらず、フランスの10年債利回りは3月半ばあたりまで上昇を続けた。この背景にあったのは今年4月、5月のフランス大統領選挙に向けた思惑であった。

国内投資家による12月以降の米国債の売却の要因のひとつとしては、米大統領選挙の結果を受けたトランプ政権の経済政策への思惑やFRBによる昨年12月と今年の3月の利上げにみられる正常化を睨んだものであったとみられる。

またフランス国債についてはフランスの大統領選挙を睨んだものであったとみられ、4月と5月の大統領選挙を前にして、4月もフランス国債を大量に売り越していた可能性はある。また売り越し規模からみても米国債も大量に売り越していた可能性がある。

さらに別の要因が影響していた可能性がある。5月16日の日経新聞の記事によると、昨年12月以降のフランス国債の売却は地銀などの売りではないかとの指摘があった。地銀などは日銀のマイナス金利政策の影響で日本国債などでは運用益が稼げず、外債投資を活発化させていた。しかし、上記のような米国債やフランス国債の利回りの上昇などもあり、金融庁が外債運用を拡大させている一部の地域金融機関を対象に米国債などの価格下落が経営に与える影響などの立ち入り検査を実施することになったと3月に報じられた。このため特に4月に地銀などが保有する米国債やフランス国債のポジションを大きく削減させていた可能性がある。いずれにしても来月発表される国際収支の付表にて確認してみたい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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