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フランス大統領選挙でのマクロン氏勝利で市場はひと安心、今後はECBの動向も焦点に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

5月7日に行われたフランス大統領選の決選投票の結果は、事前の予想通りに中道で無所属のマクロン候補が「極右政党」のルペン候補を破り、勝利した。すでに5日の欧米市場ではマクロン氏勝利を織り込んで株式市場は上昇していたが、8日の東京株式市場も買いが先行し、日経平均は年初来高値を更新した。

ここで注意すべきポイントはふたつある。ひとつは「事前の予想通り」であったということである。昨年の英国の国民投票の結果によるEU離脱の決定や米国大統領選挙の結果は、事前予想を裏切るものとなり、事前予想そのものに対して疑念が生じた。さらに予想外のことが起きやすいのではとの見方が拡がった。その予想外の出来事の主因として「自国優先主義」の台頭があった。予想以上の人達がポピュリズムや自国優先主義の考え方に共感し、その流れの行き着く先がルペン氏の勝利の可能性となっていたのである。

それらの流れに対して、とりあえず壁となったのが3月15日のオランダ総選挙の結果であった。ルッテ首相率いる与党・自由民主党がウィルダース党首の自由党を大差で破った。反移民や反欧州連合(EU)を掲げる極右の自由党は伸び悩んだものの、議席そのものは増やした格好となった。それでもポピュリズムの流れはあるものの、米国のように政権が変わるような事態にまでは発展するような動きとはならなかった(自由党が勝っても政権につく可能性は低かったが)。

そして今回のフランス大統領選挙の結果も「自国優先主義」を掲げたルペン氏は敗退した。ルペン氏が決選投票まで残ったことそのものはフランスでのポピュリズムの流れの強まりを示すものとの見方もあろう。しかし、ルペン氏の父親のジャンマリ・ルペン氏も2002年の大統領選挙でシラク大統領との決選投票に進んで、やはり敗退している。これを見る限り、フランスではポピュリズムに対する一定の支持はあるものの、その流れを阻む勢力のほうが依然として大きいとの見方ができるかと思う。

9月にはドイツ連邦議会選挙が予定されている。オランダの総選挙やフランスの大統領選挙の行方次第では、ドイツの選挙でも反ユーロの勢力が強まる懸念もあった。警戒は必要ながらもユーロが内部から崩壊するような事態は避けられよう。

金融市場では今回のフランス大統領選の決選投票の結果をみて、ひと安心となった。「もしも」が警戒されていたが、それが払拭されてリスクオンの動きを強めた。株式投資家の不安心理の度合いを示すシカゴ・オプション取引所のボラティリティー・インデックス(VIX指数)は20年超ぶりの低水準となったそうである(ロイター)

ここからはユーロというシステムの行方に対する不透明感はある程度払拭され、今後はそれほど材料視はされなくなるとみられる。欧州の政治リスクの後退を受けて、市場の視線はあらためて、欧米の景気や物価動向を睨みながらのFRBの正常化に向けた動きや、ECBの政策転換の可能性など、欧米の中央銀行の政策の行方などが焦点になると予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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