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ムニューシン米財務長官の強いドルは良いことだとの発言の意図

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「強いドルは国益にかなう」という米国が伝統的に受け継いできた為替政策は、トランプ政権に変わってからも続いているようである。ムニューシン米財務長官は、17日のフィナンシャル・タイムズとのインタビューで、「長期的に見て強いドルは良いことだ」と語った。

ムニューシン米財務長官は就任後、ドルの長期的な強さについて、米経済にとって最大の利益であり、世界の基軸通貨としての信頼を反映しているとの見解を繰り返し示していた。しかし、トランプ大統領が12日のウォールストリート・ジャーナルのインタビューでドル相場に関して強すぎるとの認識を示したことで、市場はトランプ政権はドル安誘導を意識しているのではないかと警戒し、北朝鮮などの地政学的リスクも相まって、ドル円は一時108円台前半にまで下落(円高が進行)していた。

ムニューシン米財務長官は、FTとのインタビューで、「トランプ大統領は短期的なドルの強さについて事実に基づく発言を行った」と述べていた。つまり、トランプ大統領とムニューシン財務長官との間に、為替政策に対して意見の相違はなく、あくまで短期的にみるか、長期的に見るかとの違いに過ぎないことを強調した。

米財務省は14日に公表した外国為替報告書で、中国を為替操作国として認定することを見送った。その理由についてトランプ大統領は北朝鮮を抑え込むために中国政府の協力を得られるためだと説明した。今回、為替操作国として認定した主要貿易相手国・地域はなかったが、同省は「監視リスト」に前回と同じく中国と韓国、日本、台湾、ドイツ、スイスの6か国・地域を指定した。

「強いドルは国益にかなう」という米国の伝統的に受け継いできた為替政策については、本音は違うところにあるものの、表面上のスタンスはそのように見せざるを得ないというのが実情ではないかと思う。それは米国が為替操作国もしくは監視リストにいくつかの国を指定するとなれば、そもそも米国そのものが為替操作国ではないという前提でないとおかしいことになる。

1985年のプラザ合意を持ち出さずとも米国はかなり自国のための為替操作を行ってきた国だと言える。それが結局、急激な円高ドル安を招くことになり、「有事のドル高」がいつの間にか「有事の円高」に変わったひとつの要因であろう。しかし、基軸通貨国としては、それを公に認めるわけにはいかない。このためムニューシン米財務長官から、強いドルは良いことだとの発言が出てきたものとみられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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