中東・アジアでの地政学的リスクの高まりに対して、市場の反応が鈍い理由

(写真:ロイター/アフロ)

 米国防総省は6日夜(日本時間7日午前)、米軍が巡航ミサイル「トマホーク」59発をシリアの同国軍施設に発射し、対シリア攻撃を開始したと発表した。

 このシリア空軍基地へのミサイル攻撃を巡り、トランプ米政権内の内紛も表面化している。トランプ氏の最側近だったバノン大統領上級顧問・首席戦略官がシリア攻撃に反対する一方、トランプ氏の娘婿クシュナー大統領上級顧問が実施を求めたとされる。

 トランプ氏の従来の過激路線を推進するバノン氏と、穏健路線を重視するクシュナー氏やコーン国家経済会議(NEC)委員長の対立が激化しているなか、今回のシリア攻撃は「穏健派」の主張を取り入れたものという、なんとも皮肉な結果となっている。

 そしてティラーソン米国務長官は9日放送のABCテレビの番組で、シリアへのミサイル攻撃は北朝鮮への警告の意味が込められていたと強調し「他国への脅威となるなら、対抗措置を取るだろう」と述べた(日経新聞電子版)。

 ただし、ティラーソン米国務長官は米国には北朝鮮の「レジーム・チェンジ(体制転換)」には関心がないとも述べている。

 米海軍当局者は8日に原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群が、シンガポールから朝鮮半島に向け、同日出航したと明らかにした。空母打撃群は1隻の空母とそれを護衛する3隻のイージス艦、そして攻撃型原潜によって構成される。

 7日から8日にかけての市場の反応を見る限り、米軍によるシリア攻撃による影響は限定的と言える。7日に発表された3月の米雇用統計で非農業雇用者数が前月比9.8万人増となり、市場予想を大幅に下回ったことに影響を受けて、ドルやダウ平均が下落した面があった。しかし、非農業雇用者数については悪天候が一時的に影響したとの見方があり、3月の失業率は4.5%と2007年5月以来、約10年ぶりの水準に低下したていたことで、さほど悪材料とはならず、7日のダウ平均は小幅安での引けとなった。

 そもそもこの雇用統計が注目されている理由は、米国の景気動向をみる指標であるとともに、FRBの金融政策に大きく影響するためである。そのFRBの金融政策を巡っては、ニューヨーク連銀のダドリー総裁が興味深い発言をしていた。3月31日にダドリー総裁は、バランスシート縮小を開始すれば利上げを休止する可能性があるとしたが、ダドリー総裁は7日、この休止というのは既に非常に短い意味があり、短い休止を強調したのである。かなり苦しい言い訳にも聞こえるが、要するにバランスシート縮小開始は、利上げをそこで止めるわけではないということであった。このダドリー総裁の修正発言もあり、7日の米国債はリスク回避で買われるのではなく、むしろ売られていたのである。

 7日のドイツや英国の国債は、リスク回避の動きもあって買われていたのに対し、米国債はリスク回避よりもダドリー総裁発言に大きく影響を受けていた。現状、市場の感応度が地政学的リスクよりも、FRBの金融政策の方に対しての方が大きいことが伺える。

 米軍によるシリア攻撃に関してはロシアの反応が最大の注目点となっていた。ロシア政府は、米国によるシリア空軍基地へのミサイル攻撃について厳しく批判したものの、ティラーソン米国務長官のロシア訪問は予定通り進める見通しとなっている。ロシアが強攻策に出るようなことはなさそうであり、その意味で地政学的リスクがさらに高まる様子はいまのところみられない。このあたりも市場がさほど神経質とはなっていない要因とみられる。

 リスクとしては北朝鮮の方がむしろ高い可能性はある。米軍による第1空母打撃群の朝鮮半島の派遣が、北朝鮮への抑止効果となるのか、反対に北朝鮮がさらに過激な行動に出るのか。このあたりは米中首脳会談の最中にシリア攻撃を行っていたことも影響してこよう。

 つまりこちらは中国の出方がポイントとなる。これについても、米中首脳会談で何らかの協議が行われた可能性は当然ありうる。突発的なことが発生したとしても、中国は静観している可能性もある。ただし、その突発的なことが起きた際には、地理的にも近い東京市場には大きな影響が出ることが想定される。北朝鮮で何らかの動きが起きた際にはリスク回避の動きから、一時的にせよ円高進行、株式市場の急落に加え、再び国債が買われることで長期金利が低下することもありうるか。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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