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強力な緩和政策のブレーキにも苦慮するECB

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

3月9日のECB理事会で、主要金利と資産買い入れ策を据え置きを決定した。これは予想通りであり、市場へのインパクトも限定的かとみられていたが、市場はドラギ総裁の会見内容などから、ECBのスタンスの微妙な変化を感じ取った。

ドラギ総裁は理事会後の会見で、ECBは今回の声明から「目標達成に向け正当化されるなら理事会は利用可能なあらゆる措置を利用する」との文言を削除したと表明した。削除理由について「デフレリスクに促された一段の措置の導入に向けた緊急性がもはや存在しないことを示唆するために削除された」と説明した。

さらにドラギ総裁はデフレリスクはおおむね無くなったと言えるとし、市場ベースのインフレ期待は目に見えて高まったと指摘した。また、景気に対するリスクバランスの改善を指摘したほか、利下げを示唆する言及を削除するかどうか協議したことも明らかにした。この発言等を受けて9日の欧州市場ではユーロが買われ、欧州の国債は売られた。

3月17日にECB理事会メンバーのノボトニー・オーストリア中銀総裁が、ECBは下限金利である中銀預金金利を主要政策金利であるリファイナンス金利より先に引き上げる可能性があるとの認識を示した。これを受けて市場ではECBの利上げも意識した。

ところが市場でECBが金融引き締めを視野に入れ始めたとの思惑が広がっていることを受けて、政策メッセージの変更に消極姿勢を強めていると関係筋6人が明らかにしたそうである。理事会の事情に詳しい関係筋の1人は「われわれはテールリスクの低減を伝えたかったが、市場は出口への一歩だと受け取った」とし、「ECBは拡大解釈された」と話した(ロイター)。

ドラギ総裁の会見は強力な緩和政策を打ち切って出口を探るとまでは解釈はできないが、緩和に前傾姿勢であったものを物価の上昇などを背景に少しブレーキを掛けたものともいえる。その意味ではたしかに利上げまで想定していたものではなかったのかもしれない。

ECB内にはかなり慎重な関係者もおり、金融緩和策の終了はかなり先だと投資家を安心させたい考えを持つ人もいることは確かである。

ECB内では、ドイツなど早期に金融緩和策の解除が必要とするメンバーと、強力な金融緩和が引き続き必要とするメンバーが再び火花を散らせているとの見方がある。

ドイツ出身のラウテンシュレーガー専務理事は27日に、ECBが政策スタンスの変更について協議するのは時期尚早としながらも、異例の金融刺激からの最終的な出口に向け備える必要があるとの認識を示した。

ワイトマン独連銀総裁はユーロ圏では拡張的な金融政策がなお適切との認識を示した上で、拡張的なスタンスが後退することを望むとも発言している。また、ECB理事会は、非常に緩和的な政策の出口政策をゆっくりと検討し始め、発信を幾分均衡の取れたものにすべきと考える人もいるかもしれないと語っていた。

これに対して、ドラギ総裁に近いとされるプラート専務理事からは、ユーロ圏はなお著しい金融刺激が必要との発言があった。タカ派的なドイツやオーストリアなどのグループと、ハト派的なグループがECBの強力な緩和姿勢の今後について、再び火花を散らしはじめているのかもしれない。

注目すべきはドラギ総裁の意志とも言える。ECB理事会後の会見はどうみてもハト派に組みしているようにも見える。ワイトマン独連銀総裁の「発信を幾分均衡の取れたものにすべきと考える人」とはドラギ総裁を示しているのではないとも思えてしまう。

ただし、マーケットは先を読んで動くことで、今回のECB内にはかなり慎重な関係者もいることを示したことで、特にイタリアやスペイン、ポルトガルなどの長期金利が予想以上に上昇してしまうリスクを先に摘んでおこうとしたのかもしれない。

いずれにしても正常化というのはECBにとってもなかなか困難なものであるのも確かで、表だってのブレーキも踏めない日銀はどうするのだろうと思わざるを得ない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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