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クリントン対トランプ決戦、金融市場はどう動くのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

注目の米大統領選挙の開票が始まった。午後にも勝敗が明らかになる。米大統領選挙はメイン州とネブラスカ州を除いて、一般投票で最も多く票を集めた候補者が、その州の選挙人をすべて獲得するという「勝者総取り」という形式となる。このため単純に支持率だけで勝敗が予測できるわけではない。しかし、ここにきてクリントン氏が再び優位に立っているようだが、結果を見るまではわからない。

まもなく大統領選挙というタイミングで突然再燃したクリントン氏のメール問題は、FBIがクリントン氏の私用メール問題で訴追を求めない方針を示したことで一応の決着となった。これにはFBI内の反クリントン派が絡んでいるとか、早期解決には現オバマ政権の意向が働いたとの観測があったが、大統領選挙に絡んでのものであったことは確かではなかろうか。

接戦となっていた大統領選挙は終盤になってクリントン氏に落ち着きそうだとの見方が強まった。ところがクリントン氏のメール問題が再燃したことで、トランプ氏の支持率とクリントン氏の支持率が拮抗した。金融市場では政治経験がなく政策の不透明感が強いトランプ氏の追い上げに警戒感を抱き、米国株式市場は下落し、外為市場ではドルも下落した。それに対して安全資産とされる米国債は買い進まれた。これが「リスクオフ」と呼ばれる動きであった。しかし、メール問題の早期解決により、米国市場では今度は「リスクオフ」の反動、つまり「リスクオン」の動きが起きていた。

上記の動きからもわかるように金融市場は政治経験がなく過激な主張を繰り返すトランプ氏への警戒を強めている。クリントン氏に期待しているというよりもトランプ氏よりはまし、との認識であろう。

このまま順当にクリントン氏が大統領選挙で勝利したとして、金融市場はいったんは好感しよう。しかしその状態は一時的なものに止まることも考えられる。たとえば2012年に安倍首相が登場してアベノミクスと呼ばれた現象のようなことが起きるようなことは考えづらい。市場の注目は政治よりもFRBの金融政策に移ってくるのではなかろうか。

クリントン氏が大統領となるのは来年であり、今年12月のFOMCに何らかの圧力を掛けるようなことは考えづらい。むしろそういうタイミングでもあり、FRBは淡々と市場予想の盛り上がりを背景として、利上げを決定してくる可能性がある。ただし、その後に再利上げができるかどうかは経済物価動向次第とも言えるため予測は難しい。思った以上に物価がしっかりしており、再利上げの可能性はないとはいえない。また膨らんだFRBのバランスシートをどうするのかも次の課題となる。このあたりについては、ブレイナード氏も候補のひとりとされるクリントン政権下の財務長官の人事も影響してくるかもしれない。いずれにしてもクリントン氏となれば市場の地合が現在から大きく変わることは考えづらい。

もしもトランプ氏がクリントン氏を破ったらどうなるのか。「もしトラ」とも呼ばれているようだが、そうなると市場でも先行き不透明感が強まり、いったんリスクオフの動きが再燃してくる可能性がある。つまり株が売られ、ドルが売られて円高が進むことに。それでもまったく新たな政策(善し悪しはさておき)に対する期待感が市場で出てくることも考えられる。強いアメリカを主張して国民の期待感を強ませることで、金融市場も期待を寄せる可能性はある。しかし、本当に米国経済はそれで良くなるのかどうかは不透明となり、FRBとしてもいったん利上げは先送りして様子を見ることも予想される。トランプ氏本人の政治家としての技量が未知数である以上は、トランプ大統領を支える閣僚人事の行方も注目されよう。またFRBのイエレン議長は再任しないとトランプ氏は主張していただけに、それが本当ならばいずれ次期FRB議長人事も注目材料となる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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