Yahoo!ニュース

9月の国債売買高は一時的に回復

久保田博幸金融アナリスト
日本証券業協会のデータを基に作成

10月20日に日本証券業協会は9月の公社債投資家別売買高を発表した。公社債投資家別売買状況のデータは、全体の数字と短期債の数字となっているため、短期債を除く債券のデータについて全体から短期債を引いた。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。

9月の公社債投資家別差し引き売買高 注意、マイナスが買い越し、単位・億円

()内は国債の投資家別売買高の超長期・長期・中期別

都市銀行-1139(536、-1823、231)

地方銀行 4960(279、3693、1330)

信託銀行-2730(-5501、1528、2917)

農林系金融機関-3488(-2067、355、50)

第二地銀協加盟行 1354(745、361、210)

信用金庫 284(47、973、-174)

その他金融機関 1200(-140、770、937)

生保・損保-3297(-2915、900、72)

投資信託-1741(-566、959、-1474)

官公庁共済組合-20(-97、0、62)

事業法人-626(-71、1、0)

その他法人-423(-188、202、-6)

外国人-27674(-3320、-4283、-19310)

個人 767(4、37、6)

その他 11292(12552、-4253、7667)

債券ディーラー-862(81、117、-965)

9月の国債を中心とした債券売買を見るにあたって注意すべきことは、9月20、21日の日銀の金融政策決定会合において総括的な検証を行い、何かしらのフレームワークの変更があるとの見方が強まっているなかでの売買であったことである。

海外投資家の売買高が今年3月以来の高い水準となっていたのは、マイナス金利の深掘りを含めた何らかの追加緩和の可能性も意識してのものと思われる。その海外投資家は中期債を中心に2兆7674億円の買い越しとなった。海外投資家の買い越しは27か月連続となる。

日銀は21日に総括的な検証の結果を発表するとともに、フレームワークの変更を行った。これは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と呼ばれ、その柱のひとつがイールドカーブコントロールとなった。今回の場合は、イールドカーブをフラット化させるのではなくスティープ化させようとのものとなった。

イールドカーブのスティープ化に寄与したとみられる投資家を探してみると、超長期債を大きく売り越していたのは「その他」となっていた。「その他」にはゆうちょ銀行やかんぽ生命、年金積立金管理運用(GPIF)などが含まれている。

都銀は1139億円の買い越し。長期債主体に買い越しとなったが、9月21日に10年債利回りが一時プラスに転じる場面があったが、長期債が売られた場面で押し目買いを入れてきたとみられる。

国債の投資家別売買高(一覧)での全体合計の国債売買高でみてみると、9月は216兆335億円となっており、8月の189兆9590億円から大きく増加した。日銀のフレームワーク変更の思惑によるイールドカーブのスティープ化を受けて、売買高が一時的に回復したとみられる。

都銀の国債売買高は8月は1兆7326億円と、データがある2004年4月からでは過去最低水準となっていた。しかし、9月は3兆6046億円と回復した。ただし、10兆円を超える月が普通にあった状態から比べれば決して多い数字ではない。

問題は9月21日の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の決定以降の国債の売買高となろう。日銀のイールドカーブコントロールが奏功しているというより、投資家は国債売買そのものを手控え、売買高は大きく減少している。それを象徴するのが10月19日の債券市場であった。債券先物は2014年8月18日以来となる日中値幅4銭、そして10年債カレントのこの日、2015年9月24日以来の出合いなしとなっていた。10月の公社債の売買高は大きく減少するであろうと予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事