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日銀の長期金利のターゲットの範囲とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を決定した9月21日に長期金利は一時プラスに転じてプラス0.005%に上昇した。しかし、その後は買いが入り28日にはマイナス0.090%とマイナス0.1%近くまで低下した。

長短金利操作付き量的・質的金融緩和の柱のひとつイールドカーブ・コントロールとは、短期金利と長期金利にそれぞれ目標値を設定し、その目標値に誘導するものとなる。このうち短期金利は、日銀当座預金のうち政策金利残高に適用されるマイナス0.1%となり、長期金利については10年国債金利で概ね現状程度(ゼロ%程度)としている。

日銀は短期金利は操作できても、長期金利については市場が決めるものとの見方をしており、今回の長期金利の目標値についても厳格には操作はできないとのスタンスを取っている。ただし、国債買入を柔軟に行うことである程度イールドカーブの修正は可能との認識とみられる。

日銀は長期金利が上昇した場合などには例えば10年金利、20年金利を対象とした指値オペを実施する用意があるとしている。固定利回り方式による国債買入の場合には、買入予定総額に上限を設定しないことがあるとしている。つまり長期金利が大きく上昇するような場合には、それを日銀は無制限の国債買入で押さえ込むことも予想される。長期金利が想定以上に低下した際には、上記のような歯止めは持っていない。

日銀は長期金利は目標に据えたものの、完全にコントロールできるものではないとしており、これはつまり今回の長期金利の誘導目標のゼロ%というのはかなりの幅を持ったものといえる。それがどの程度の幅であるのかははっきり示されてはいないが、すでに長期金利がマイナス0.1%近くに低下している以上、この水準はまだ許容圏内という認識になろうか。

ただし、28日に10年国債の利回りがマイナス0.090%に低下した際、日本相互証券の画面にはマイナス0.095%に100億円が4本を含め都合600億円ものまとまった売りが入ったそうである。ここにきて流動性が低下したこともあり、600億円という売りは異常に大きいものであった。これがどれだけ日銀の意図を意識したものかはわからないが、かなり意識された売り物となっていた可能性がある。

ただし、いずれにしてもあまり具体的な誘導目標は日銀も持ってはいないのではなかろうか。29日の日経新聞の経済教室で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の概要を策定した中心人物のひとりとみられる日銀の内田企画局長は、「程度」で許容される長期金利の変動幅について「あまり広いと政策目的を実現できないし、あまり狭いと市場機能への影響が大きいので、実際の市場調節を通じて適切な「相場観」を作っていければと思っている」としている。28日の10年国債の動向をみる限り、いまのところ下限はマイナス0.1%程度に置いている可能性がある。上限はプラス0.1%あたりとの見方もあるが、せいぜいゼロ%あたりとの見方も出ている。

足元の金利は短期金利なので日銀の操作範疇であるが、長期金利については直接誘導するというよりも、超長期債の利回りの居所次第の面もある。つまり短期金利と超長期債の利回りがある程度のターゲットになり、そのカーブを結ぶ途中の長期金利の居所が決まるような形となる可能性もある。その意味では30日に発表される「当面の長期国債買入れの運営について」での超長期債の買入の動向が焦点になってくるものと予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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