内閣府の予測、雇用は当たり、物価は外れ

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

7月26日に開かれた経済財政諮問会議の資料が面白い。その前提となる経済環境について「経済再生ケース」においては、日本経済再生に向けた、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を柱とする経済財政政策の効果が着実に発現するとして、中長期的に経済成長率は実質2%以上、名目3%以上となるとした。消費者物価上昇率(消費税率引上げの影響を除く)は、中長期的に2%近傍で安定的に推移するとしていた。

アベノミクスがスタートしていた2013年8月の経済財政諮問会議の資料を確認してみたところ、経済に立てするシナリオは上記とほぼ同じであった。

2013年8月の計数表の2016年度の予測と、最新の計数表の2016年度の数値を比較してみたい。2013年に予想していた2016年度の実質GDPはプラス1.9%(最新予測はプラス0.9%)、2016年度の物価上昇率は消費者物価指数でプラス2.8%(同プラス0.4%)、完全失業率は3.4%(同3.2%)、名目長期金利はプラス2.7%(同プラス0.3%)となっていた。

念のため直近の数字を確認してみると2016年1~3月期の実質GDPは前期比年率プラス1.9%。5月の消費者物価指数は総合、コアともに前年同月比マイナス0.4%、5月の完全失業率は3.2%、そして7月27日の名目長期金利はマイナス0.285%となっていた。

2013年8月の試算に比べてGDPや失業率については、ほぼ予測に近いものとなっていたが、物価上昇率と名目長期金利は予測から大きく乖離している。

2013年から本格的に始動したアベノミクスであったが、そろそろその総括もする必要があるのではなかろうか。今回の経済財政諮問会議の資料の比較から見る限り、経済成長はそれなりに、雇用は予想以上の回復をみせた格好となっている。しかし、アベノミクスは本来、大胆な金融緩和を軸としたデフレ脱却がキーであったはずが、肝心の物価はむしろ前年比は下がっており、名目長期金利は足元マイナスとなっている。

これはアベノミクスの三本の矢が物価は経由せずに、直接、景気や雇用に働きかけたかのように見える。しかしそれはそれで理屈が通らないであろう。アベノミクスは確かに円安株高に働きかけた。それは世界の金融経済リスクが後退したタイミングで、リフレ政策をぶち上げたことで市場が驚き、円高株安ポジションのアンワインドが発生したからに他ならない。その円安も長くは続かなかった。それでも景気が比較的しっかりしているのは、大きな世界的リスクの後退で米国経済などがしっかりしていためであろう。

物価は上がらずとも景気や雇用がしっかりしている。そうであるのであれば無理な金融緩和で物価を上げようとする政策が果たして必要であったのかとの疑問もわく。それ以前に上記の試算の比較から浮き出るものとしては、異次元緩和は物価上昇にはまったく働かず、物価そのものは低迷し続け、物価の先読みをして動く長期金利も低迷どころかマイナスに沈んでいるという事実である。

今回の試算によると「経済再生ケース」においては、2024年の名目長期金利の予測はプラス4.4%となっている(2013年の予測によると2023年に5%)。物価が上がれば長期金利も上昇するための予想であろうが、政府債務が1000兆円もあるなかでの長期金利4%と1993年ごろの長期金利4%とはかなり様相は異なる。そのため市場の価格変動リスク等はかなり大きくなるものと予想される。

その長期金利が抑えられていることで、むしろ安定した経済成長が計れるということも言えまいか。しかし物価の先行きはさておき、その物価を上げようとして日銀がかなり無茶をやっている反動もいずれこよう。長期金利の予測も意外にあたっていたといった状況になった際に日本の金融経済がどのようなものとなるのか、むしろあまり想像はしたくない気もする。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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