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個人向け国債と個人向け劣後債の違い

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

日経新聞によると、損害保険ジャパン日本興亜は8月にも「劣後債」を個人投資家向けに1千億円発行するそうである。保険会社による個人向け社債は国内で初めてとなる。また、機関投資家向けも含め計2千億円規模を調達し、大型買収など将来の成長投資に振り向けるとか。

これは日銀のマイナス金利付き量的質的緩和策の効果とも言えるものとなり、企業の投資を促進させていると言えなくもない。個人にしても預貯金金利はさすがにマイナスとはなっていないが、ほとんどゼロに近い。しかし、劣後債となれば金利も比較的高めに設定されると予想され、日経新聞によると利率は年1%程度が予想されているそうである。これは売れ行きは好調となると予想され、瞬間蒸発となるのではなかろうか。

利率は個人向け国債の最低保証金利の0.05%を大きく上回るものの、注意すべきは同じ個人向けとはいっても個人向け国債と個人向け劣後債とは性格が異なる点となる。

個人向け国債は1万円単位、今回の劣後債は100万円単位となる。特に気をつけなければいけないのが途中売却の際で、個人向け国債については1年間売却できないが1年経過すると財務省が額面で買い取る仕組みとなっている。これに対して劣後債だけでなく通常の債券を途中売却する際は、発行する証券会社が時価から手数料相当分を差し引いた価格で買い取る仕組みとなっている。個人向け社債などは極めて流動性が低いため、その買い取り価格が安くなり、債券市場の動向次第では思わぬ損失を被る懸念が存在する。また、劣後債は繰り上げ償還があるため、満期まで持てない可能性も意識しておく必要がある。

少なくとも途中売却の可能性は低く、お金が100万円単位あり、証券会社の担当者を通じて購入が出来そう、という方は今回の劣後債は投資対象としては面白いと思われる。

しかし、現在の金利水準が極めて異常とみている方とかにはむしろ個人向け国債をお薦めしたい。もちろん銀行預金に置いておくという選択肢もあるが、将来の金利上昇に備えるというのであれば、個人向け国債の10年変動タイプがお薦めである。長期金利がもし上昇に転じるとそれに応じて利率が動くのが個人向け国債の10年変動タイプとなるためである。

この個人向け国債の販売額が伸びているそうである。NHKはニュースで今月発行分の個人向け国債の応募額が去年の同じ月の1.5倍になったと報じている。6月募集分は3105億円と前月の2104億円から増加した。ボーナス月でもあったことで増えた面もあったかもしれないが、個人向け国債特有ともいえる最低保証利率の0.05%が効いており、また流動性リスクと価格変動リスクもない面が多少でも認識されつつあるのではなかろうかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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