Yahoo!ニュース

市場参加者による日銀への警戒感

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

今月のQUICK月次調査<債券>によると、日銀は金融政策をどのように運営すべきかという問いに対して、「緩和策を縮小すべき」が40%を占め最も多くなった。「現状維持」が28%、「さらに緩和政策を強化すべき」が23%となっている。この結果に対して意外感を持つ人も多かったのではなかろうか。

英国のEU離脱により、日銀は臨時の金融政策決定会合を開催して追加緩和を協議するのではないか、それはなくても7月の決定会合で追加緩和を決定する可能性が高まったのではないかとの観測も一部で流れていた。ところが債券市場参加者はこれに対して4割が「緩和策を縮小すべき」と答えているのである(アンケートは英国のEU離脱後に行われた)。

これは国債を主体とした国債で運用しようにも日銀に買い占められている上にマイナスの利回りで運用出来ないことによるものとか、日銀のマイナス金利政策により銀行の収益が悪化するためではないかとの指摘もあるかもしれない。それについて完全に否定はできないものの、それ以上に現在の日銀の異常ともいえる金融政策に対しての危機感を市場参加者が抱いているためと思われる。

緩和策を縮小すべきとした人の意見には、「マイナス金利導入によって、限界はさらに近づいた。量の拡大ペースをスローダウンさせる時期になったと思われる」、「そもそもマイナス金利のメリットは少なく、副作用のほうが大きいので廃止すべき」、「運用難が深刻化する中で、不健全な貸出が伸び、過剰なリスクテイクを促すことで、政策を解除するときのコストが拡大している。直ちに政策を見直すべきだと考える」、「残り少なく、国債市場にとっては不安感を強めることにもなりかねない追加緩和のカードは切るべきではないと思っている」といった意見だけではなく下記のような意見も出ていた。

「日銀の政策は明らかに誤りだが、それをストップさせるにはアベノミクス自体が誤りだと認めさせる必要があり、このまま日銀の誤った政策により日本経済は破滅に向かっていくと予想される」

「日銀の企画ライン以外はおそらく失敗だったと考えている非生産的な政策をこのまま続けるのは愚かだと言わざるを得ない。経済は実験場ではなく、迷惑をこうむるのは将来世代の国民である」

「日銀が急にテーパリングすることは望ましくないとすると、一段と緩和せざるを得ない。安倍政権の下で黒田日銀は突き進むしかないと思っている」

「このまま金融緩和を進めることは、さらに危険な状況を作り出すことになるのではないかと考えています。ただ、日銀は間違いを認めることはないのでしょうから、撤退するのは難しいのでしょう。」

つまりこの「緩和策を縮小すべき」とした参加者の背景にあるのは自分たちにかかる不利益というよりも、市場どころか日本経済そのものを揺るがしかねない危機感によるものである。もうひとつこんな意見もあった。

「一旦立ち止まり緩和長期化を前提とした戦略の再構築を図るべきところにきている。既に誰もが納得できるやり方はなく、一時的には市場に大きなストレスがかかるが、今ならばまだ参加者は残っており、ある程度のところでは金利上昇は止められる」

緩和策を縮小となれば、ある程度の市場の混乱は避けられない。しかし、いまであれば一時的な混乱で済む可能性はあると私も思う。太平洋戦争も負けを認められないがために非常に多くの犠牲者を出した。日銀も泥沼化する前に軌道修正をはかり、マイナス金利という異常な状況から抜け出して、普通に国債で運用できる環境に戻すことを考えるべきであると思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事