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金融政策と市場との対話

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

FRBのイエレン議長は5月27日に、「金融当局が時間をかけて緩やか、かつ慎重に政策金利を引き上げていくのは適切だ」とし、「恐らくは、今後数か月のうちにそうした行動が適切になるだろう」と述べた。

地区連銀総裁からも利上げに向けて、かなり前向きの発言が相次いだことで、イエレン議長は多少なり慎重な姿勢を示して調整を図る可能性もあるかとみていた。ところがすでに市場は6月か7月のFRBの利上げを織り込みつつあった。米国株式市場では利上げが可能なほど米国経済がしっかりしているとの認識を強めたぐらいである。この市場の落ち着きも確認した上で、イエレン議長もその見方を強めさせたと思われる。

FRBに関してはテーパリングを示唆したことで市場が揺れた2013年6月のバーナンキ・ショックと呼ばれたものもあったが、比較的スムーズにテーパリングを成功させ、利上げにこぎ着けた。その後の追加利上げについては2016年に入ってからの世界的なリスク回避の動き等はあったものの、慎重に時期を見定めていたものと思われる。半年に一度程度のペースの利上げであれば、外部環境に大きな変化がなければ問題はないと思われる。

このFRBの動向をみてもリーマン・ショック並みの危機はすでに過ぎ去っており、FRBの正常化に向けた動きはそれに応じたものとなる。これに対し安倍首相はリーマン・ショック並みのリスクがあるとして来年の消費増税を先送りすることを決定した。さらに日銀は物価目標の達成が困難になりつつあるなか、異次元緩和を継続せざるを得なくなっている。

日銀も本来であれば米国同様に出口政策を目指すことが必要と思うが、自らの目標に縛られてしまった格好となっている上に、これまでの追加緩和に対してサプライズを意識するあまり、市場との対話という面においては、あまりうまく行っているとは思えない。

物価目標の達成が難しいならばそれなりに柔軟な政策に舵を取ることも必要ではなかろうか。市場もそれは理解しているはずである。いま日銀に必要なのは消費増税も先送りされて財政規律の緩みも指摘されるなか、国債の信認を維持させることである。例えば大量の国債買入について、物価目標の達成の有無にかかわらず、ある程度の期間を示すなりの節度を示すことも必要ではなかろうか。その上で市場参加者との対話などから適切な金融政策について多少なり軌道修正を図ることも必要ではないかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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