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物価連動国債で期待インフレ率が示せない理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

3月23日に財務省で国債市場特別参加者会合が開催された。このなかで財務省から4~6月期における物価連動債の発行額等について発行計画から1000億円減額し4000億円とし、その上で4月と6月にそれぞれ200億円の買入消却入札を実施してはどうかとの提案がなされていた。

2015年度においてBEIは低下傾向で推移しており、特に入札の度にBEIの水準が切り下がるような状況となっている、こうした状況について、原油価格の下落等のファンダメンタルズ要因による一時的な低下との見方もある一方、課題となってきた投資家層の拡がりが依然限定的であるため、恒常的な需給の不均衡が生じているという見方も少なくない、さらに値動きが大きく、投資家の買いが手控えられる中で流動性プレミアムが拡大していることを指摘する意見も聞かれている、との指摘がなされていた。

BEIとはブレーク・イーブン・インフレ率とのことであり、物価連動国債の実質価格に市場が織り込んでいる期待インフレ率とされている。これが原油価格の下落によって低下傾向にあり、さらに投資家層の拡がりが依然限定的との指摘がなされた。

ここには日銀の量的・質的緩和による影響などの指摘はなかったが、日銀は岩田副総裁をはじめ、このBEIによって期待インフレ率が上昇することを確かめて、それが物価に波及するであろうとの認識であったはずである。

ところが物価連動国債はこのように投資家層は限られ、需給の不均衡もあり、その価格が適正な期待インフレ率を示しているかどうかはかなり慎重に見極める必要がある。それ以前に、あれだけの異次元緩和を日銀が実施しても、原油価格の下落によって実際の物価上昇率はコアCPIなど前年比ゼロ%近辺にあり、実際の足元物価にも影響を受けやすい物価連動債のニーズが低迷し、減額の提案がなされたのである。

この財務省の提案に対して国債市場参加者からは、当局の提案に賛成する意見が多かった。「日本だけでなくグローバルにインフレ期待が低下している状況下においては物価連動債への需要が高まっていないため、現状の発行額である5000億円はやや多いと感じており、減額することが適当と考える」などの指摘があった。

このBEIについては、あくまで期待インフレ率の参考指標のひとつではあるが、もしこれで期待インフレ率を示そうとするのであれば、現実の国債市場での取り扱いがどのようになっているのかを確認する必要があろう。市場規模も大きくなく、投資家層も限られ、結局、値付けは業者の一部の市場参加者による足元物価なども参考としたものとなっている。これによって市場というか国民全体の期待インフレ率が示される、というのにはかなり無理があるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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