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バンクの起源

久保田博幸金融アナリスト
ジェノバ(写真:アフロ)

日本では銀行と訳された英語の「Bank」の起源は、政府による本格的な債務が開始された12世紀の北イタリアにあるとされている。

そもそも英語の「Bank」の語源は、欧州圏の貨幣供給が増加し交易が活発化する中、当時の世界の貿易、文化の中心地であった北イタリアに生まれたとされる。この地の両替商が両替のために使用したイタリア語「BANCO」(長机、記帳台)に由来するとされている。

ローマ・カトリック教会と連携した北イタリア商人は絹や香辛料貿易を活発に行っていた。十字軍に財政的な支援を行なった見返りに、十字軍の支配下に組み込まれた地中海東部全域における特権を得ていたのである。この遠隔地間の交易のための開発されたのが「為替手形」であった。このようにあらたな信用供与手法が構築され、12世紀から14世紀にかけての北イタリアに「銀行の起源」があるとの見方がある。

12世紀のジェノバにはバンゲリウスという言葉が両替商を意味し、この両替商は預金を受け入れ、地元の事業主に貸付を行なっていた。また、13世紀のベネチアでは、バンコ・ディ・スクリッタと呼ばれる直訳すれば「書く銀行」、つまり帳簿上で決済を行なう振替銀行も誕生していた。

為替手形の開発などによって銀行業を介在とした財の生産、そして交易によって中世の西欧経済が発達した。ヨーロッパ各地の物産が交換され、また国内外の負債が決済される場でもあった国際定期市が、交易商人兼銀行家が特に活躍する場になった。そしてイタリア人は商人から銀行家へと転職し、その代中にはルネサンス期を代表する銀行家・政治家となったメディチ家があった。

地中海諸島に広がったペストは1348年にヨーロッパ全域に広がった。フィレンツェの北で医薬業を営んでいたと思われるメディチ家は、ペストの治療薬により莫大な財を築いたとのではないかとの説もある。有力商人となったメディチ家は1397年に自身の銀行を設立し金融業に進出した。バルディ、ベルッツィなどの商会がイングランド王などを相手にした貸付で失敗し、倒産したことなどにより、メディチ銀行は大銀行に躍り出ることになる。

メディチ銀行はローマやベネチアなどへ支店網を広げ、情報のネットワークを構築し、国際的な信用機構も作り上げた。また、ローマ教皇庁会計院の財務管理者ともなり、教皇庁の金融業務で優位な立場も得たことで、目覚しい発展を遂げる。当時の王室や教会などの支配階級にとり、金融のスペシャリストである銀行家はなくてはならない存在となっていたのである。

ただし、当時のキリスト教は利子を取ることを禁じていた。このため利用されたのが外国為替取引である。利子はアジオと呼ばれた異なる通貨の換算率の中に含まれ、手数料という名目で利子を取っていたのである。なかなか巧妙である。

メディチ家は銀行家として成功を収め、さらに政治にも進出した。家門の中からローマ法王を二人輩出し、のちにはトスカーナ大公国の君主となった。また、ルネサンス期の様々な芸術家たちのパトロンとなったことでも知られている。

銀行の起源としては、17世紀のイギリスに求められるとの説もある。当時の金の細工商であったゴールドスミスは、ロンドンでも一番頑丈な金庫を持っていた。金を手元に抱え込むリスクを懸念した金所有者は、この金庫を持つゴールドスミスに金を預けるようになった。

ゴールドスミスは金を預かる際に、預り証を金所有者に渡し、この預り証(goldsmith note)が、現代の紙幣の起源との説がある。

ゴールドスミスは、この金の預かりをしているうちに、預けられている金が常に一定量を維持していることに気が付き、預けられた金を運用するようになった。こうして貸し出し運用が開始されたことで、これが銀行の始まりであるとの説がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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