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FRBが追加利上げの前にするべきこと

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

12日にフィッシャーFRB副議長は講演で、「10月のFOMCの声明は次回12月の会合での政策金利の引き上げが適切だろうということを示した」との見解を示した。つまりこれは、12月のFOMCでは政策金利の引き上げが適当との考えを示唆した格好となった。ニューヨーク連銀のダドリー総裁も12日の講演で、「金融政策の正常化を始める条件は近いうちに満たされるだろう」と述べ、利上げの開始時期は近づいているとの認識を示した(日経新聞電子版)。

イエレン議長も昨日挨拶し、こちらは金融政策には直接言及しなかった。しかし、いわば執行部と言うべき、フィッシャー副議長とダドリー総裁の発言で、よほどの経済データの悪化や予想外のリスクが発生するようなことがない限り、12月15、16日のFOMCで利上げを決定し、正常化に向けた動きを進めることが予想される。

また、セントルイス連銀のブラード総裁は「経済はわれわれが考えていたよりもずっと好調なようなので(利上げの)ペースは速まるだろう、と言える選択肢を残しておくべきだ」と指摘し、リッチモンド連銀のラッカー総裁は「FRBは固定観念に縛られ、事前に決めた利上げの道筋にとらわれることがあってはならないとし、FOMCごとに政策金利を0.25%ずつ引き上げた2004~06年のようなことは避けたいと話した(WSJ)。

ラッカー総裁は事前に決めた利上げの道筋にとらわれることがあってはならない、と発言していたが、少なくとも12月に利上げを決めるとすれば、かなり前からそれに向けての準備をしてきたと見る方が自然であろう。ただし、今後の「追加」利上げについては、ラッカー総裁の指摘したようにFOMCごとに利上げをするといったことは想定していないと考えられる。個人的には来年、追加利上げがあっても1回か2回程度ではないかと予想している。しかし、その追加利上げの前にFRBはやるべきことがある。

非伝統的な金融政策からの脱却に際し、FRBはまず量的緩和政策の解除をテーパリングというかたちで進めた。それが終了後、今度はあらためて金融政策の軸を金利に戻すべく、ゼロ金利の解除を進めることになる。12月の利上げにより、金融政策は伝統的な政策に戻ることになり、正常化に向けて大きく前進する。しかし、もうひとつの大仕事が残っている。

それは膨らみすぎたバランスシートを適正水準まで減少させることである。ただし、金融市場への影響を配慮すると、急激な金利上昇は招きたくないため、国債の売りオペは技術的には可能ながら現実的には難しい。そのため、償還が来たものを乗り換えず、自然に減少させていく必要がある。現在は償還した債券を乗り換えてバランスシートは維持させている。ところがすでに中央銀行のバランスシートを大きくさせても物価への影響は日銀の壮大な実験もあって疑問視されていることもあり、維持させる必要性は薄れていよう。

さらにあっという間に当座預金残高を元に戻した2006年の日銀の量的緩和解除の際とは違い、FRBが購入したのは期間の長い国債やMBSであり、その削減にはかなりの時間を要することが予想される。このため利上げをもし無事達成できたのであれば、次は追加利上げよりもこのバランスシートの削減に着手する必要があろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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