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円安政策がさらに困難に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

11月5日付けの日経新聞によると、米財務省は5日、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する12か国が互いの通貨政策について協議する枠組みを設けることで一致したと発表した。米財務省によると12か国の通貨・財政当局は通貨安競争を回避することで合意。各国の財務当局の担当者が集まり、年1回、会合を開くそうである。関係者によると枠組みの設置を求めたのは米国だとか。

これは通貨安政策をとっている「新興国」を意識したものとされるが、このTPP12か国には当然ながら日本も含まれている。米議会への対策でもあろうが、アベノミクスという派手な円安政策を取った日本も、ある程度、念頭に置かれている可能性もありそうである。

ニューヨーク連銀のダドリー総裁は4日、同連銀主催の会合での講演後に行われた質疑応答で12月に利上げする可能性があるというイエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長の見解に同意する考えを示した(WSJ)。

FRBの理事やダドリー総裁から年内利上げに向けて慎重な発言が出ていたが、12月のFOMCの利上げは予定通りに実施されると予想される。これに対してECBは12月3日の理事会で通貨安を意識しての追加緩和を模索している。しかし、ドラギ総裁の発言はここにきてやや歯切れが悪くなっている。

日銀も物価目標の達成時期の先送りもあり、追加緩和を期待する声も出ているが、少なくとも「円安」を期待した政策は今後取りづらくなる可能性がある。二度の異次元緩和とその根底にあったアベノミクスと呼ばれたリフレ政策は、物価高はさておき、結果として急激な円安を招いた。しかし、この円安に対しては効果よりも個人消費などへの悪影響が指摘されるようになり、政府関係者からもこれ以上の円安を望んではいないとの発言も相次いだ。これには米政府からの意向が働いていた可能性がある。

米政府からの意向は以前からあったものではあるが、今度はTPPを絡ませてくるとなれば、あからさまな円安政策はさらに取りにくくなる。日銀が追加緩和をするとしても、円安に働きかけるような政策がやりにくくなる。追加緩和そのものが結果として通貨安を招いてしまうというのであれば、よほどの理由がない限り、日銀の追加緩和そのものも難しくなる。今回のTPPの通貨政策について協議する枠組みが具体的にどのようなものになっていくのか。これはかなり注意してみておく必要がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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