日銀の目標から遠ざかる物価
10月30日に発表された9月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年同月比マイナス0.1%となった。8月のマイナス0.1%に続き、2か月連続の前年比マイナスとなった。
日銀が物価目標としている総合では前年同月比ゼロ%と8月のプラス0.2%から低下し、物価目標との乖離は2.0%となった。食料及びエネルギーを除く総合では前年同月比プラス0.9%とこちらは8月のプラス0.8%から上昇した。
原油価格の下落などに伴い、電気代、ガソリン、都市ガス代などの下落幅が拡大し、エネルギーにより総合の上昇幅が縮小した。これに対して生鮮食品を除く食料や、耐久財、通信料金はプラス幅が拡大した。
この数字を見る限り、日銀の二度にわたる異次元緩和の意味とは何であったのかを考えさせる。日銀の黒田総裁は物価の基調は着実に改善していると強調しているが、結果を見る限り、2年で2%の目標に対しては達成どころかゼロ近辺に低下してしまっている。この現実はやはり重視すべきものと思われる。
そもそも金融政策で物価に影響を与えられるのかという大きな前提に誤りはなかったのか。リーマン・ショックにギリシャ・ショックと世界的な大きなショックを二度に渡り経験し、そのショックによる経済金融リスクを封じ込めたのは、日米欧の中央銀行による積極的な金融緩和政策であったことは確かである。危機の発生元が金融市場であったことで、その市場の動揺を大量の資金供給によって押さえ込んだ。これによって市場での不安が後退し、景気も回復した面がある。つまり、金融政策が直接景気に働きかけたというよりも、市場リスクを押さえ込んだのが非伝統的な手段を含めた金融政策であった。
ところがこの危機の「後退」時期に、何故か日銀はさらに大胆な金融政策を取ってきた。特に日本国内に何かしらの金融リスクが発生したわけではないのにも関わらずである。ただし、アベノミクスの登場のタイミングで円安株高が加速されており、急激な円安による物価への刺激も加わり、コアCPIは一時的に上昇した。しかし、原油価格の下落によって、再び前年比の上げ幅は縮小し、ゼロ近辺となった。これは原油価格の下落や消費増税の影響とする前に、そもそも極端な規模の国債買入でマネタリーベースを大きく増加させても、それだけで物価を上げることはできないことをむしろ証明した格好となる。
二度にわたる異次元緩和でも結果が出ず、日銀は自ら身動きのとれない状態に追い込まれた。物価目標達成時期は先送りされ、市場からは追加緩和を求める声も強い。これにどのように応えるのか。そもそも物価は金融政策では動かせないが、市場に対しては金融政策はある程度の影響力を持つ。いわゆるマーケットフレンドリーな政策を取るためにはリフレ的な発想から、もう少しフレキシブルな金融政策に戻す決断も必要であろう。