日銀の追加緩和を阻む壁
9月14日から15日にかけて日銀の金融政策決定会合が開かれている。今回の会合では前回までと同様に賛成多数による現状維持が決定されると予想されている。それよりも利上げが決定される可能性がある16日から17日のFOMCの方が市場からの注目度は高い。しかし、自民党の山本幸三衆院議員が10月30日の金融政策決定会合で追加の金融緩和に踏み切るべきだとの認識を示したように、日銀の追加緩和期待も一部に出ているようである。
10月30日の展望レポートでは経済や物価に関する見通しが下方修正される可能性がある。中国経済の減速を懸念した株式市場や外為市場での乱高下も起きるなど、市場安定のための日銀の追加緩和期待もあるだろう。FRBが利上げを決定するタイミングで、日銀が追加緩和となれば、2014年10月の異次元緩和第二弾のときのような円安を起こすことも可能との見方もあるかもしれない。
しかし、日銀の追加緩和についてはいくつかの見えない障壁が存在する。そもそも黒田総裁となってからの日銀はそれ以前の金融政策を否定することからスタートしている。それは安倍自民党総裁の輪転機発言や日銀副総裁にリフレ派筆頭の岩田規久男教授を起用したことからも明らかである。
黒田日銀が白川日銀以前の政策で否定したものは何か。それは過去の金融緩和における金融緩和の規模の小ささ、曖昧なインフレターゲット、戦力の逐次投入などとなるのであろうか。それをアベノミクスの金融政策は、日銀法を改正してまで政府の意向と言うか、リフレ的な政策にあらためさせるというものであった。
このため黒田日銀は大胆な国債買入をサプライズ的に打ち出し、明確な期限を区切ったインフレターゲットを設定し、政策目標はマネタリーベースに変更した。さらに戦力は逐次投入しないことも言い切っていた。これにより、レジームチェンジが起き、マネタリーベースの急増でインフレ期待が高まり、実質金利の低下などによって雇用の回復による賃金上昇、物価の上昇に働きかけるというのがアベノミクスの最初の柱である金融緩和の目的であったかと思われる。
つまり黒田日銀が過去二回の異次元緩和のスタイルを貫くとなれば、その効果の検証など以外に、第三弾にはいくつかの壁が生じることになる。ひとつは規模での勝負が難しくなっていることが挙げられる。山本幸三議員は、長期国債などの資産買い入れを最低10兆円規模で拡大することが必要と述べていた。また、本田悦朗内閣官房参与は追加緩和について、ETF購入枠の拡大や日銀当座預金の超過準備の付利の引き下げ、財投債や地方債の購入などが考えられるとしている。
これらの発言はこれ以上の大胆な国債の買い入れが困難であることを意味している。ETFは当然ながら社債や財投債の市場規模は国債と比較にならない。超過準備の付利の引き下げはそもそも調整目標がマネタリーベースである限り、無理がある。付利があるからこそ日銀の当座預金に資金が積み上がり、マネタリーベースを増加させているのがいまの日銀の政策スタイルであるためである。
山本氏も本田氏もとりあえず追加緩和ありきの発言であり、これは黒田日銀のスタイルとは異なったものになる。もし日銀が今後追加緩和を行うのであれば、大胆さ、調整目標のマネタリーベース、逐次投入せずといった現在のスタイルからの変更が必要になる。それはつまりリフレ派が否定した黒田日銀以前のフレキシブルなスタイルに戻すことになる。そのスタイルの変更があるとするのであれば、日銀にはその説明責任も求められることになる。このように現在の日銀が追加緩和を行うには見えない壁が存在しているのである。