Yahoo!ニュース

物価と消費が低迷、異次元緩和の効果とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

8月28日に発表された7月の全国消費者物価指数は日銀の物価目標となっている相互で前年同月比プラス0.2%、物価のベンチマークとなっている生鮮食料品除く総合で前年同月比0.0%、食料及びエネルギーを除く総合で前年同月比プラス0.6%となった。

7月の生鮮食料品除く総合は前年比マイナスとなるのではないかとの予想が多かったが横ばいに止まった。消費者物価の上昇抑制要因としては、電気代、都市ガス代、ガソリンなどの下落幅が大きかったことが指摘されており、原油価格の下落による影響も大きいとみられる。甘利明経済財政・再生相は会見で、エネルギー価格下落という要因を除けば、消費者物価は「そこそこで推移している」と指摘していた。

これに対して食料品の上昇率は大きく、また上昇した品目数の方も多く、消費者はむしろ物価は上がっているとの実感を持っていたのではなかろうか。それを示していたのが、やはり28日に発表された7月の家計調査の内容か。2人以上の世帯の消費支出は1世帯当たり物価変動の影響を除いた実質で前年同月比0.2%減少していた。市場では猛暑やボーナス増の効果などで1.0%増との予想(QUICK)となっていたが、結果はマイナスとなっていた。

8月17日に内閣府が発表した2015年4~6月期GDP速報値によると、物価変動の影響を除く実質で前期比0.4%減、年率換算では1.6%減となった。GDPの過半を占める個人消費は、食料品や日用品の相次ぐ値上げなどが相次いだが、そこに賃金の伸びが追いつかず消費者心理が冷え込んだとされる。

甘利明経済財政・再生相は、このGDP速報値の発表後の記者会見で、前期比0.8%減と落ち込んだ個人消費について「すべてとは言わないが、一時的要因が大きかったと思う」との認識を示した。エアコン需要の伸びや、プレミアム付き商品券の執行率などへの期待もあったようだが、どうやら個人消費は7月に入っても落ち込んだままのようである。

28日発表された7月の労働力調査によると、完全失業率は3.3%とななり、前月に比べ0.1ポイント低下した。そして7月の有効求人倍率は前月比0.02ポイント上昇の1.21倍と、1992年2月の1.22倍以来、23年5か月ぶりの高い水準となった。雇用の改善傾向は見えていても、それが個人消費には直結せず、食料品等の値上げも影響しているとみられる。しかし、全体の物価は低迷するなど、25年ぶりのデフレからの脱却というイメージにはほど遠いようにも思える。

少なくとも日銀が異常なくらい国債を買い込めば、インフレ期待が強まり、消費を含めた景気が回復し、物価も上昇するとのシナリオは崩れていると見ざるを得ない。そもそも日銀が国債を大量に買えばデフレから脱却できるという理屈そのものを点検する必要もあるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事