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国債発行額に制限はあるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

国債の発行については国によって形式が異なっており、その残高に関しては日本を含めて具体的な制限がない国も多い。

日本の国債のなかで、新規国債と呼ばれる建設国債と赤字国債の発行額は歳出と歳入が決定されれば自動的に算出される。借換債は60年償還ルールにより発行されるものであり、その金額も自動的に算出される。また、財投債については財投計画に応じて発行額が決定される。つまり国の予算編成に応じてそれぞれの発行額が決定され、建設国債は財政法といったようにそれぞれに発行根拠法が存在する。発行額や残存額については特に制限は設けられてはいない。

米国債の発行根拠法は、合衆国憲法(第1条第8項)に基づいて連邦議会が定めた第二自由公債法である。同法において、国債残高に制限額を課して、その範囲内であれば自由に国債を発行し資金調達できる。米国での国債は、日本のように単年度の予算における歳入・歳出の差額を埋めるという単年度主義の観点からではなく、その時々における国庫の資金繰り上の必要性から発行される。したがって、年度の国債発行予定総額や年限別の発行予定額が事前に法令若しくは予算上定められていることはなく、各時点における国庫の資金繰り状況に応じて、市場動向も勘案しつつ、弾力的に国債発行を行っている。(財務省「国債市場特別参加者制度」資料より)。

英国債の発行根拠法は1968年に制定された国家貸付法である。この法では「国内の金融調節のために必要と判断される額」、「国家貸付金からの支出が同資金の収入額を超過する額を補填するのに必要な額」、「国家貸付資金の収支のバランスを図るために必要となる額」を借り入れることができるとされている。日本の一般会計にほぼ相当する統合国庫資金は歳出のみ議決対象となり、収支尻が赤字の場合は「国家貸付資金」からの繰入により賄われる。黒字の場合には国家貸付資金に振込まれる。議会に対する関係で発行限度額や残高についての制限はない。また、年度途中の発行計画変更についても、何ら法令上・予算上の制約はない。

ドイツにおける国債の発行根拠法は、連邦基本法及び予算基本法である。連邦予算における信用調達(国債、借入金)については連邦法で限度額の授権が必要となり、信用調達の額は、連邦予算の投資的支出の額を超えてはならないこと、が定められている。連邦政府は、上記限度額の範囲内で、国債の種類・年限等を自由に選択することができる。

国債の発行残高に関しては、日本や米国、英国では特に制限があるわけではない。しかし、ユーロ圏に関しては1993年に発効したマーストリヒト条約により、ユーロ圏への参加要件として、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする基準(マーストリヒト基準)が示されている。

むろん制限がないからといっていくらでも国債を発行してもかまわないというわけではないし、無制限に借金が可能というわけではない。財政規律が守られてこそ巨額の国債残高を維持させることが可能となる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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