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日銀は現実を見て量を減らすべき

久保田博幸金融アナリスト

日銀はこれからどうするのか。足元の消費者物価指数は前年比ゼロ%近くにおり、いずれマイナスとなるとの予想となっている。しかし、その後は次第に前年比のプラス幅が上昇していくとの予想である。その前年比は果たしてどの程度まで上昇するのか。原油価格や為替の動向次第の面もあるが、2.0%の物価目標の達成は容易ではない。少なくとも異次元緩和から2年以上経過して、物価目標達成どころかマイナスに落ち込むこと自体、日銀のリフレ政策が誤りであったことを示している。

原油価格下落の影響はたしかにあった。あったというよりも物価は期待インフレとかによるものではなく、原油価格や為替の影響を受けやすいことを示した。日銀が大量の国債を買えば、物価を動かせるとの理屈は否定されたと言わざるを得ない。消費増税が物価の上昇を抑制したとの主張も、異次元緩和でレジームチェンジが起きなかったことの言い訳にすぎない。

仮に今後、物価目標が達成されたとして、果たしてそれを日銀の異次元緩和によるものと、どれだけの人が考えるであろうか。原油価格の上昇や通貨安、さらにはリスク後退による景気の持ち直しによる影響などからの説明の方がすんなりと納得できよう。金融経済は魔法やおとぎ話、フォースや気合いの世界ではない。

日銀だけでなくイングランド銀行、FRB、ECBも大量の国債を買うという手段を取らざるを得なかったことも事実である。しかし、その目的は景気であったり物価であったり雇用であったり、通貨安であったりと様々で、まさに量的緩和は魔法の杖のようにみえる。しかし、その実態は中央銀行が国債主体に金融資産を大量に買い上げて、市中の資金量を単純に増やしているだけである。

大量に資金が供給されても、巨大なプールに大量の水が蓄えられるようなもので、それが何かのインセンティブに繋がるのかは、お金の量とは別な次元で存在しているはずである。危機的状況時にはこのような見せ金も一定の効果はある。しかし、それはあくまで危機回避のためのものであり、量を見て雇用を促進したり、賃金を上げられるものでもない。

日銀の異次元緩和の物価への波及について、日銀のマネタリーベースの増加と目標とする物価の推移を比較して、ほとんど効果がないことが示された以上は、本来ならば政策そのものを見直すことが必要になる。発行される国債の9割も中央銀行が吸い上げるような事態を続けることは、国債市場の流動性低下ばかりでなく、市場の需給をも歪める。今後のあらたな危機への対応も困難になりうる。

ここは早期に国債の買い入れ額を調整し、金融政策の目標であるマネタリーベースの引き下げを行うべきではなかろうか。大量の国債買入に一定の効果はなかったと認めれば、その金額を削減しても影響が限定的であることを丁寧に説明すれば市場の動揺もある程度は抑えられる。もちろん効果がないと認めなくとも、税収の予想以上の伸びなどから、その波及経路はさておき、異次元緩和の効果は十分にあったとして金融政策の変更を行うことも可能であろう。

マネタリーベースを一定水準に削減させ、日銀としては史上初めてとなるテーパリングも成功させる必要がある。その上であらたな金融政策の目標を設定し直すことも必要となる。操作目標を再び金利に戻すことも一案か。なかなか難しい選択ではあるが、このようなことを実施しなければ、日銀は身動きが取れないばかりか、本当に通貨や国債の信認を低下させてしまうような事態が起こる懸念すらある。日銀には英断が求められよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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