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日銀の決定会合の回数を減らす理由

久保田博幸金融アナリスト

6月18日の日銀の金融政策決定会合後に「金融政策決定会合の運営の見直しについて」が発表された。金融政策に関する審議と情報発信を一層充実する観点から、金融政策決定会合の運営を見直すことを決定したそうである(全員一致)。

このような金融政策の制度の変更はそれなりに大きなニュースとなりうる。黒田総裁就任以前の日銀であれば、このような発表には事前に何らかの報道があってもおかしくはなかった。このため、この発表そのものが異次元緩和同様にサプライズであった。どのような過程を経て発表に至ったのかは不明ながら、今回も関係者には厳重な箝口令が敷かれていた可能性があるとともに、極めて少人数で話しが進められていた可能性もある。

もうひとつ興味深かったのは発表のタイミングであった。特に急いで変更すべきものでもないが、どうせ変更するのであれば早いほうか良い。6月というタイミングは実施が2016年1月からということで準備期間として半年程度置いたとの見方もできる。もしくは別な事情があった可能性もある(ちなみに今回の変更で日銀法の改正等は必要なし)。また、来年分の会合日程発表が近いためではないかとのご指摘もいただきました。

肝心の内容は、まず「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の公表を年4回とすること。これまで展望レポートは、4月末と10月末に2回公表されていた。1月と7月には展望レポートの中間レビューを行っていたことで、こちらが正式の展望レポートに格上げされて、都合年4回とするようである。

次に、展望レポートで発表していた展望レポートにおける政策委員の経済・物価見通しについて、従来の政策委員の大勢見通しに加えて、全ての政策委員について各委員の見通しとリスク評価を公表するとした。どちらが見やすいかはさておき、FOMCのドット・チャートを意識したものといえよう。

三番目に、決定会合における「主な意見」を作成し、決定会合終了後1週間を目途に公表するとした。決定会合の「議事要旨」は、従来と同様、次回決定会合で政策委員会の承認を受けた後に公表するそうである。つまり、決定会合の内容は決定会合直後の公表文や当日の総裁会見である程度は明らかになるが、もう少し委員間の議論の中身を知りたくても、議事要旨は次回の会合後の公表となる。それでは次回の会合の動向を予想するには議事要旨はタイミングからは役立たない。それを補完する役目のものとなるのであろうか。

四番目の金融政策決定会合の開催頻度の見直しが今回の最大の見所となった。展望レポートを議論・公表する会合を年4回開催し、その間に経済・物価情勢の変化などを議論する会合を開催することで、金融政策決定会合を年8回開催する(従来は年14回程度)とした。

展望レポートうんぬんの理由付けはさておき、この変更の最大の理由は欧米に合わせるということに尽きよう。注釈でも「米国連邦準備制度、欧州中央銀行においても、決定会合の開催頻度は年8回となっている。また、イングランド銀行も、年8回に変更する方針を明らかにしている。」と指摘している。

日銀の決定会合は当初、年20回あったものが14回に変更された。この14回とは毎月12回の会合に4月と10月の末に展望レポートを発表するタイミングでの開催を加えることで14回となった。ちなみに4月末と10月末は意外に金融政策変更のケースは多かった。それはさておき、その14回をFOMC並みの8回にするのは、グローバルスタンダードというものを意識した変更と言えよう。

たしかに14回は多いかなとの声は以前からあった。念のため、これで日銀の政策委員の仕事が減るわけではなく、日銀の他の業務に関わる仕事量には変わりない。日銀の政策委員は金融政策だけを決定するために存在しているのではなく日銀の役員である。

ただし、業務負担という面では、今回の変更に合わせて、金融経済月報の作成・公表は取り止め、年4回公表される展望レポートに集約されることで、こちらは事務方にとってはかなりの負担減となりそうである。この削減もそれほど市場に影響を与えることはないであろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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