ドル円が124円台を付けた要因とその影響
5月26日の引け後、外為市場ではドル円が年初来高値であり、テクニカル上でも大きなポイントとなっていた今年の高値122円04銭を抜けてきた。さらにショートカバーを誘うような仕掛け的なドル買い円売りが入り、ストップロス等も巻き込み、この日の9時半頃には123円台を回復した。27日のニューヨーク市場では2007年6月以来の124円台を一時付けた。
前回、124円台をつけていた2007年にはいったい何が起きていたのか。2006年半ばに、それまで高騰を続けていたアメリカの住宅価格が下落に転じ、一部の住宅ローンが担保割れとなるなど、アメリカ住宅バブルが崩壊し、信用力の低い個人向けの住宅資金貸し付けであるサブプライム・ローンで焦げ付きが増加した。
サブプライム・ローン問題による最初の危機は欧州で発生した。2007年8月9日にドイツ連邦銀行は、IKB産業銀行がサププライムでの投資に伴う損失発生に対しての救済策を協議するため、緊急会合を開催した。さらに同日、仏銀最大手BNPパリバは傘下ファンドの償還停止を発表し、次はどこかとの連想も加わり、欧州銀行向け資金の出し手が急速に限られてしまい、これはパリバ・ショックとも呼ばれた。
アメリカのダウ平均は、2007年10月に過去最高値の14164ドルの高値をつけたが、危機の発生により、その後は下落基調となった。
つまり世界を揺るがした最初の危機の発生が2007年に起きていた。日本では「リーマン・ショック」と呼称されているが、米国初の世界的な金融経済危機の発端は2007年に入り顕在化したサブプライム・ローン問題であった。
米国のダウ平均は2007年10月につけた過去最高値はすでに抜いているが、ドル円も本当の意味での危機以前の水準に戻ったとは言えまいか。日米欧の金融政策の正常化は、米国で始まろうとしているところだが、ドル円は先に危機前の水準に戻ったと言える。
今回のドル円の動きの背景は過去のチャートも意識した上で、テクニカルなドルの買い戻しも誘った動きとみている。ただし、その理由付けとして、あらためてFRBと日銀の金融政策の方向性の違いも意識された可能性はある。FRBは早ければ9月にも利上げというかたちでの正常化の道を探る。参考までにイエレン議長は8月27~29日に開かれるジャクソンホール会合を欠席するそうである。
ただし、FRBの年内利上げはかなり織り込まれており、日銀の出口が見いだせない状況も市場は理解しているはずで、これを材料にして、さらなる円売りドル買いは仕掛けづらいのではなかろうか。ドル円は120円台前半あたりが居心地が良く、当面は値動きは荒いものの方向感の乏しい動きを予想する。
今回の123円台に乗せた円安による影響については、輸出企業は恩恵を被ることになろうが、海外への生産移転も進み以前ほどは景気に与える影響は大きくない。むしろ、燃料などの輸入品の値上がりにより、国内の中小企業や家計に与えるマイナスの影響も考慮する必要がある。
日銀にとっては原油先物が60ドル近辺に上昇した上での円安となれば、これによる物価の上昇も期待したいところではなかろうか。しかし、2012年11月のアベノミクス登場時の円安に比べるとインパクトは小さく、その効果も限定的と思われる。