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旧量的緩和と異次元緩和の違いは何か

久保田博幸金融アナリスト

その昔、2001年3月19日に日銀は金融政策決定会合で、金融市場調節に当たり、主たる操作目標を無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更する、とした。世界の金融政策の歴史上初めて量的緩和政策を決定した。

政策金利がゼロ近くとなるとマイナス金利との選択肢もなくはないが、日銀はこの際に操作目標を金利から量に変更した。その目標となったのが日銀の当座預金残高である。このときの量的緩和政策は2006年3月まで続くことになる。

日銀の当座預金残高は2001年3月の量的緩和決定時に4兆円から5兆円に積み増した。それが解除される2006年3月までに当座預金残高目標は30~35兆円程度に積み上がっていた。その間に幾度も当座預金残高の目標値が引き上げられていたのである。

そして、今度は2013年4月に日銀は金融政策決定会合で、量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更し、金融市場調節方針をマネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行うとした。これが量的・質的緩和(新量的緩和)である。

2001年3月の旧量的緩和の際には、「新しい金融市場調節方式は、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続することとする」とした。

これに対して2013年4月の新量的緩和の際には、「消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」とした。

旧量的緩和政策の際には、量的緩和が物価上昇をどれだけ促した野かとの分析はさておき、目標の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで5年掛かったこととなる。

これに対して新量的緩和の方は、消費者物価指数(総合)の前年比上昇率2%の達成まで期間を2年と定めたが、2年後の消費者物価指数はほぼ前年比ゼロ近辺となっている(29日発表の4月の全国コアCPIは消費増税の影響を除いて前年比マイナス0.1%の予想、2年前の2013年4月は前年比マイナス0.4%)。

新旧の操作目標である日本銀行当座預金残高とマネタリーベースの違いは何か。マネタリーベースとは、流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計額であり、つまり流通現金の差でしかない、この流通現金は日々の資金調整で操作できるものではなく、結局は日銀の当座預金残高で操作する他なく、何のことはない、新旧の量的緩和の操作対象は同じ物である。

それでは新旧の量的緩和では何が違ったのか。新量的緩和では異次元緩和とも呼ばれたが、買い入れる資産の額を一気に増加させ、特に国債を長い期間のものを含めて大量に購入するとした。この際、日銀券ルールなども撤廃している。

これは見方によれば、ECBやFRBのように長めの金利を低下させることも目的のようにみえる。しかし、本来はいわゆるリフレ派の主張でもあった日銀が国債を引き受けるかたちにすることが主眼と見えた。むろん日銀の国債引き受けを禁じた財政法があるため、国債引き受けではなく買入という形式となったが、財政ファイナンスのような格好として物価を無理矢理にでも上げ、上げすぎたら金融政策でブレーキを掛ける(掛けられるかとの疑問はいったん置いておく)というのが、インフレターゲットとされる。

新旧の量的緩和を比較すると、やり方は同じように見えるが、出口については大きな違いが生じる。旧量的緩和は日銀の当座預金の積み上げに短期の資金が使われた。このため、量的緩和解除は非常に容易であった。これに対して新量的緩和は長い期間の国債も大量に購入しており、これを短期間に減少させることは無理である。これはFRBなども同様の問題を抱えることになり、膨らみすぎた中央銀行のバランスシートを減額させるにはかなりの時間を要することになる。

最大の問題は旧量的緩和も物価目標達成に5年の期間を要したことである。しかも目標値はコアCPIの2%ではなくゼロ%であった。そもそも旧量的緩和の際もそうだが、量を増やしてそれがどのように物価上昇に働きかけるのかは定かではない。

これに関しては新量的緩和政策のときの説明よりも、まだ旧量的緩和の決定の際の議論のほうが説得力があるように思われる。すでに旧量的緩和政策の決定から10年以上経過しており、日銀のサイトにはそのときの議論の様子が記名入りで書かれた議事録がアップされている。このなかではマネタリーベースをどんと増やせば自動的に物価が上がるような議論はされていない。

2001年3月19日 金融政策決定会合議事録

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2001/gjrk010319a.pdf

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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