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物価目標達成は他力本願?

久保田博幸金融アナリスト

日銀は3月16、17日に開催した金融政策決定会合の議事要旨を公表した。この議事要旨のなかから、物価に関する委員の議論をピックアップしてみたい。

「物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、+0%台前半となっており、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移する可能性が高いとの見方で一致した」

「複数の委員は、エネルギー価格などの動向によっては、小幅のマイナスになる可能性があると指摘した。」

この会合後の3月27日に公表された2月の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみてゼロ%となっていた。

エネルギー価格に関して、WTIのチャートをみてみると、1月に40ドル台まで下落したあといったん反発したが、再び下落し3月に40ドル前半をつけたところでボトムアウトした。チャートからはダブルボトムをつけた格好ながら、現在は50ドル近辺での推移が続いている。

日銀が4月13日に発表した3月の企業物価指数速報によると、国内企業物価指数は前年比でプラス0.7%上昇となった。消費税率引き上げの影響を除くと前年比2.1%の下落と5か月連続のマイナスとなった。しかし、原油価格の反発や円安などから前月比では8カ月ぶりにプラスとなっていた。

原油価格の下落による物価へのマイナスの影響は、WTIのチャートをみても今後は次第に収まることも予想される。日銀は今回の議事要旨にもあるように「原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い」との見方をしているが、少なくとも原油価格下落の影響が剥落するとの見方は、希望的観測というわけではなさそうである。むろん、前年比なのでいずれその影響が剥落することも確かではあるが。

それでも2.0%の物価目標に到達させるのは並大抵のことではない。一部の委員からは「改定頻度が少ないサービス価格が4月に引き上げられるか注目している」との意見があったが、このあたりも消費者物価指数を見る上では大きなポイントになりうる。しかし、一人の委員からは次のような意見が出ていた。

「消費者物価前年比が0%程度で推移するとみられる中で、物価の基調的な動きを丁寧に対外説明していく必要があるが、その際には予想物価上昇率の動向が鍵になると述べた。」

別の委員が次のように発言している。

「ある委員は、ブレーク・イーブン・インフレ率などの市場指標は原油価格の影響を受けやすいため、各種のサーベイ調査、企業の価格設定行動など、幅広い情報を丁寧に点検していく必要があるとの認識を示した」

どうやら前者が黒田総裁、後者は2月の講演でBEIには「欠陥はある」と発言していた岩田副総裁ではないかと思われる。

「別のある委員は、企業の価格設定面では、デフレ的な意識から着実に脱してきており、先行き消費が持ち直していけば、値上げ予備軍からの値上げ圧力が再び顕現化してくる可能性が高い一方で、賃金面では、ベースアップに躊躇する企業がみられるなど、デフレ的な意識が根強いとの見方を示した。」

「もう一人の委員は、企業の価格設定スタンスについて、従来の低価格戦略から付加価値を高めて販売価格を引き上げる方向に変化する動きがみられていると指摘したうえで、賃金交渉でも物価動向に配慮する姿勢がみられており、こうした動きは予想物価上昇率が高まっている表れであるとの認識を示した。」

昨年10月31日の金融政策決定会合では5対4の僅差で追加緩和を決定した。執行部(総裁と二人の副総裁)と学者出身の2人の委員がこのとき賛成に回っており、今回の予想物価上昇率の発言はこのときの賛成派から出ているのではないかと思われる。総括としてはこの賛成派を中心に2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高いとの認識を共有したようだが、下記のような意見が出ていた。

「一方、ある委員は、消費者物価(除く食料・エネルギー)のプラス幅は拡大してきておらず、先行きの物価上昇率はなかなか高まらないとの見方を示した。」

どちらかといえばこの見方がむしろ素直であろうが、異次元緩和により物価は上がるとしている日銀にとっては建前上、目標達成は可能とせざるをえない。しかし、これについては他力本願となりつつあることも確かなようである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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