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円安はアベノミクスの成果なのか

久保田博幸金融アナリスト

2012年11月の衆院解散による政権交代への期待と、あらたに政権を担うであろうとされた安倍自民党総裁によるリフレ的な発言により、アベノミクスは誕生した。その効果として示されたのが急激な円安と株高、さらには一時的な物価の上昇となる。さらに雇用も改善傾向にあり、このあたりもアベノミクスの成果とされている。はたしてここで本当にレジーム・チェンジは発生していたのであろうか。

ドル円は2011年10月末に75円台まで下落していたが、ここが過去最安値となった(念のためドル円とするときはドルが円に対して上げた下げたとの表現になる)。その後、2012年11月あたりまで80円割れが続く。しかし、2012年11月のアベノミクスの登場のタイミングにより、急激な円安を迎えることになり、2015年3月には一時122円台まで回復した。122円台がいつ以来なのかといえば2007年7月以来となる。

それでは2007年から2015年にかけて円高が進行した理由は何か。それは日銀の金融緩和の度合いが足りなかった、からではない。

2006年半ばに、それまで高騰を続けていたアメリカの住宅価格が下落に転じ、一部の住宅ローンが担保割れとなるなど、アメリカ住宅バブルが崩壊し、信用力の低い個人向けの住宅資金貸し付けであるサブプライム・ローンで焦げ付きが増加した。サブプライム・ローン問題による最初の危機は欧州で発生した。2007年8月のパリバ・ショックであった。ダウ平均は、2007年10月に過去最高値の14164ドルの高値をつけたが、危機の発生により、その後は下落基調となった。米債市場は安全資産の国債に買いが集中し、これを受けて債券は買い進まれた。そして円も安全資産として買い進まれたのである。

このサブプライム・ローン問題が2008年9月のリーマン・ショックに繋がる。その後、さほど時を経ずしてギリシャの財政問題から欧州の信用危機が発生した。それにより円が買い進まれて、ドル円は2011年10月末に75円台まで下落したのである。その後、2012年11月あたりまでドル円は低迷し80円割れが続いたが、欧州の信用危機はECBを含めて欧州連合などを含めての賢明な努力なより次第に収束していった。世界的な危機は去りつつあったのである。

そこにアベノミクスの登場のタイミングでドル円は急回復する。安倍自民党総裁のリフレ発言をきっかけとしたヘッジファンドなどによる大規模な売り仕掛けが入ったのだが、これは反転のきっかけ待ちにあったためとも言えよう。そして、そこからドル円は122円台、つまり百年に一度とされた危機が立て続けに起きる前の水準に戻ったのである。

この推移をあらためて確認すると、この動きを日銀の異次元緩和の効果として説明することにむしろ無理はなかろうか。アベノミクスはたしかにきっかけとなり、異次元緩和はそれをしっかり実行したため、円安が進行し、第二次異次元緩和でさらに円安に拍車をかけた、とされても、大きな危機以前の元の水準に戻っただけである。歴史に「もし」はないが、仮にアベノミクスのようなリフレ政策を打ち出さずとも、円高調整が入った可能性はありうると思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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