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ゆうちょ銀行とかんぽ生命の国債運用

久保田博幸金融アナリスト

ゆうちょ銀行は、今年の秋を目指す株式の上場に向け、これまでの国債を中心とした資産運用から、外国の証券などの比率を高めていくそうである。日本郵政グループが発表した2015年第3四半期決算の概要によると、ゆうちょ銀行とかんぽ生命のポートフォリオは以下の通り。

2015年第3四半期決算の概要

http://www.japanpost.jp/financial/pdf/03_2015_q3_01.pdf

ゆうちょ銀行

2014年12月末、2013年12月末

貸出金、2兆8932億円、3兆763億円

国債、109兆8856億円 126兆3910億円

地方債 5兆7594億円、5兆5503億円

短期社債 2569億円、3339億円

社債 11兆337億円、11兆501億円

株式 9億円、9億円

外国証券、30兆2184億円、22兆7313億円

金銭の信託、3兆2507億円、2兆9190億円

預け金・短期運用資産等 41兆9664億円、28兆2923億円

運用資産合計 205兆2655億円、200兆3455億円

かんぽ生命

2014年12月末、2013年12月末

貸出金、10兆4820億円、11兆205億円

国債、49兆723億円 52兆5229億円

地方債 9兆5352億円 9兆1737億円

社債 6兆6931億円、6兆4418億円

株式 9億円、9億円

外国証券、2兆65億円、1兆2394億円

金銭の信託、1兆3317億円、5816億円

その他 5兆8905億円、6兆1074億円

運用資産合計 85兆126億円、87兆886億円

ゆうちょ銀行の預金残高そのものの減少傾向は2011年あたりでボトムを打ち回復傾向にあり、180兆円近くまで回復してきたが、国債残高は引き続き減少傾向にある。2013年末に比べて16兆5054億円の減少となった。それに対して預け金・短期運用資産等は13兆6741億円増加し、外国債券は7兆4871億円増加している。中短期債の利回りがマイナスになるなどしていたこともあり、国債を売却しそれを日銀の当座預金に置いたままにするなり、一部を外国債券で運用していたとみられる。

かんぽ生命も全体の運用資産が減少し、主に国債の運用額を減少させていたが、地方債や社債はほぼ維持、外国証券の残高を増加させていた。

ゆうちょ銀行は高度な資産運用を行うファンドマネージャーや、高度な運用に伴うリスク管理を行う専門の人材を数十人規模で外部から採用し、本格的な運用チームを作るとしている。報道によると9億円しかない株式運用については触れられておらず、GPIFのような大きなポートフォリオの入れ替えにはならないと思うが、少なくとも国債の保有残高をさらに減少させようとしていることは確かである。

GPIFは株式運用などの比率を上げるため、国債をかなり売却してきたが、ゆうちょ銀行やかんぽ生命についても、これまで国債保有残高は減少させてきており、ここからの国債残高減少による国債市場への直接的な影響は限定的とみられる。しかし、それは別なリスクを増加させる。

GPIFの運用方針の変更により、共済年金や厚生年金基金にも影響を与え、さらに国債を大量に保有するゆうちょ銀行やかんぽ生命も国債の保有残高を減少させてきている。都銀も国債保有額をかなり減少させており、日銀への国債消化の依存度が異常に高まりつつある。日本国債は国内資金で十分に消化できる状況があり、需給面では問題はなかったところに、アベノミクスなどにより公的機関の国債偏重の投資スタンスを変更せざるを得なくなり、その分は日銀の買入によって補われるような構図となっている。

仮に日本の国債消化が日銀の巨額買入なしに難しくなったとみなされたときに、日銀はテーパリングどころか、その巨額買入を永久に続けざるを得ない状況にも追い込まれかねない。まさに財政ファイナンスが意識される状況がリスク要因として認識されたとき、債券市場はかなり揺れ動く懸念が生じる。果たして現政権はこのリスクある政策をいつまで続けていくつもりなのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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