物価は期待ではなく原油で動く

 12月26日に発表された11月の全国消費者物価指数(除く生鮮)は前年比プラス2.7%、消費増税の影響分を除くと前年比プラス0.7%となった。食料や電気代、宿泊料などが値上がりしたものの、原油価格の下落を背景にガソリンや灯油が値下がりし、上昇率は前年比は10月のプラス0.9%から0.2ポイント縮小した。

 消費者物価指数を構成する要素は多品目に渡る。全体の物価を上げるには日銀の気合いならぬ、人々の期待を動かす必要があるとするのが、日銀の異次元緩和の背景にある。本当にそうであったろうか。

 原油価格の代表的な指標のひとつにWTI先物がある。WTIとはウェスト・テキサス・インターミディエイト(West Texas Intermediate)の略称で、米国のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称である。この原油の先物取引がWTI先物である。

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 この米国のWTI先物価格と日本の消費者物価指数(コアCPI)のグラフを重ね合わせて見ると、なかなか興味深いことが浮かび上がる。非常に似た動きをしているのである。米国の原油価格の変動が日本の消費者物価指数に与える影響は、それほど大きくないように思えるが、ほかの変動要素にさほど大きな動きがないとなれば、輸入に依存し、その消費量も大きく、さらに値動きが大きい原油価格の変動に日本のCPIが影響を受けてもおかしくはない。もちろんそれは為替の変動も同様であろう。しかし、WTIと日本のCPIのグラフからは為替変動を加味せずとも、その影響力は大きいことがわかる。

 特にWTIとCPIの連動性が顕著に現れたのが2007年から2008年にかけての動きである。2007年7月から2008年7月にかけて、1バレル50ドル台から140ドル台への原油価格の急騰があり、その後の2008年末から2009年初めにかけて、今度は40ドル近辺にまで急低下した。

 日本のCPIは、WTIの急騰以前はゼロ近傍で推移していたが、WTIの急騰を受けて2008年7月には前年比プラス2.4%にまで上昇した。その後、原油価格の急落と1か月程度のラグがあって日本のCPIの前年比は急低下しはじめ、2009年1月にはゼロ近辺、同年8月にはマイナス2.4%となっていた。

 実は2006年の日銀による量的緩和とゼロ金利解除も、それまでにじわりじわりと上昇したWTIとともに、CPIも前年比のマイナス幅を減少させてきたことが、その背景にあったと考えられる。この間の原油価格の上昇は中国などの世界経済の景気拡大により、それが原油価格の上昇に働きかけるとともに、日本の実態経済の回復にも影響を与えていたことは確かであろう。

 さらに日本のCPIは2009年8月の前年比マイナス2.4%を底に、徐々に回復基調となっていた。これはWTIが2009年2月あたりをボトムに再び上昇基調となっていたことが要因ではなかろうか。

 WTIは2011年3月あたりに一時100ドル台まで回復し、2011年7月には日本のCPIはゼロ近傍まで回復した。その後CPIは2013年3月にマイナス0.5%まで低下するが、WTIが2011年6月に80ドル台から2013年7月に向けて100ドル台に再び上昇したこと、さらにドル円が2013年5月に向けて大きく上昇したこともあり、CPIは2014年4月に前年比プラス1.5%まで上昇したとの見方もできる。

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 CPIはほかの要因、たとえば消費増税による便乗値上げ分や、損害保険料の変更などの影響も受けるであろうが、CPIを株価のような価格推移としてのチャート分析を行えば、かなりの部分はWTI先物と為替の動きで説明が可能ではなかろうか。

 ただし、たとえばマネタリーベース前年比とCPIの前年比のグラフをみてみると、日銀の2014年4月の異次元緩和以前にはほとんど連動性はなかったのが、異次元緩和後は同じような動きを見せている。これだけみると、ここでレジームチェンジが起き、即座にマネタリーベースとCPIがタイムラグを置かずに一致した動きとなったようにも見える。しかし、2014年10月や11月あたりからは、マネタリーベースの前年比が下げ止まっても、CPIの前年比は低下している。今後の動向次第ではあるが、ここにきてのCPIの前年比の減少は原油価格の下落による影響が大きいと見ざるを得ないのではなかろうか。

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 原油先物も為替も相場であり、その先行きを予測することは難しい。しかし、このままWTIが下落していけば、CPIの前年比がさらに縮小する可能性が高いと言えよう。それは為替の動き、つまりは円安ではなかなかカバーできない。

 結論からいえば、日本のCPIは原油価格の動きに影響され、よほどの原油価格の急騰でもなければ、前年比プラス2.0%の物価目標の達成は難しいとも言える。人々の期待を変化させることが金融政策で可能なのかはさておき(本当はさておいてはいけない問題だが)、期待や予想とかではなく原油という実物資産の動きに影響を与えない限り、物価を上昇させることは難しいと言えるのではなかろうか。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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