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日本国債のメルトダウンの可能性

久保田博幸金融アナリスト

12月21日のNHKスペシャルは、「メルトダウン FILE.5 知られざる大量放出」とのタイトルで、これまで検証されてこなかった放射性物質の大量放出の事実が明らかにされた。そのとき現場では何が起きていたのか、史上最悪ともされる原発事故はなぜ起きたのか。この事故の検証はこれからも続けられ、あらたな事実が出てくることも予想される。

欧米はスリーマイルやチェルノブイリの事故を教訓に、事故が起きることを前提に原子力発電を運営していたのに対し、これらの教訓があったにも関わらず、日本では事故は絶対に起きないことを前提にしていたと番組で指摘していた。もちろん何かしらの事故は想定していても、ここまで大きな事故は前提にしていなかった。このあたり、もしものための準備を怠らず、奇跡の帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」と対照的と思える。

日本の原発で起きないとされたメルトダウンが起きてしまった。それでは絶対に起きない、というか起こしてはいけない日本国債のメルトダウンはいつか起きるのであろうか。

これについては何度も聞かれたこともあるし、こちらから関係者に問いかけたことも何度もある。債券というか国債に関する市場関係者の話からすると、いずれ起きる可能性は高いと思うが、すぐには起きないとの答えが多い。自分でも聞かれるとそのように答え方をすることが多い。

すぐにはこないかもしれないがいずれくる、といえば、関東地方を中心とした大地震や富士山噴火なども同じように言われていた。しかし、地震も火山の噴火も予想は難しい。東海沖、南海トラフの大地震が騒がれ、そのための予測に巨額の費用も掛けていたようだが、現実には阪神、北海道、長野、さらに東日本で大きな地震が起きた。専門家の予測もことごとく裏切られるほど予測は難しいとも言える。

日本国債のメルトダウンについても予測は難しい。そもそも起きるのかという問題がまず存在する。しかし、1000兆円を超える政府債務が存在し、それが増え続けている状況下、いずれ何らかの調整が生じるであろうことは過去の世界の歴史を見ても明らかである。よほどうまく債務管理政策を進めて行かない限り、ソフトランディングは難しくなり、国債暴落を含めたハードランディングの可能性を強めることになる。

このままアベノミクスを進めていけば、景気回復とともにいずれ税収が大きく伸びて、財政再建も容易になり、ソフトランディングも可能になるとの見方もある。果たしてそんなにうまく行くものであろうか。

1966年1月に、戦後初めての日本国債が発行されてからは年々発行額が増加していった。しかし、一時期、赤字国債が発行されなかった時期が存在した。それはバブルの時代である。バブルの波に乗り、民間消費や民間設備投資に主導された経済成長が持続した。このため申告所得税、源泉所得税、法人税、そして有価証券取引税などを中心に税収は伸び、この時期、一般歳出は抑制され続け財政再建策が取られていたことで、財政状況は大きく改善した。また、1989年4月からは、所得税や法人税などの大規模な減税と引き換えに消費税が導入された。この結果、1990年度には特例国債依存から脱却するまでになった。1990年度から1993年度まで特例国債(赤字国債)の発行停止が続いたのである。しかし、発行停止の期間はわずかであり、まさにこれは特例であった

今回はバブルとは言いがたいが、円安株高の影響で資産価格が上昇していたことは確かである。税収についても今年度はだいぶ回復している。しかし、それでも来年度の新規国債は40兆円程度も発行される。赤字額を多少なり減少させるのが精一杯の状況にある。

日本国債については、もともと国内で9割以上消化され、安定消化されていたにも関わらず、そこに日銀が大胆に割り込んできたこともあり、需給はタイトになっている。欧米の長期金利も低下していることもあり、日本の長期金利も過去最低水準に近いところにいる。日銀が長期金利の押さえ込みには成功しているようにみえるが、これは結果としてデフレ解消も難しいとの見方を反映しているとも言える。景気も良くなり物価も上がるとみれば、長期金利がこのような水準に落ち着いているとは考えづらい。デフレ解消、つまり物価高を引き起こせる環境にないとなれば、税収の伸びもそれほど期待はできないことになる。

いまのところ、現在の日本国債を取り巻く環境下で、日本国債がメルトダウンを引き起こすことは考えづらい。しかし、政府による大量の国債発行は続き、日銀がそれをほとんど買いあげるという財政ファイナンス状態が続いていることも確かである。何かしらのきっかけで、日本国債のメルトダウンが起きる可能性は潜在的には大きくなっている。しかも、それが起きたときの対策も日本の原発運営同様に整備されているとは思えない。想定外のことが連鎖的に出てくることも予想される。

安全策は講じている。金利の急騰には日銀などがいかようにも対処できるというのは、福島の原発事故と同様に机上の空論にすぎない。講じるべきは日本国債の暴落となりうるきっかけを少しでも減らすべきであり、今後さらにリスクを高める施策は控えるべきと思われる。起きてから、しまったでは遅すぎる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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