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2年債までマイナス金利となった理由

久保田博幸金融アナリスト

11月28日に日本相互証券で2年国債の新発債が、マイナス0.005%で取引された。日本で2年債の利回りがマイナスとなるのは初めてである。ただし、海外ではドイツなどで2年債の利回りがマイナスとなっていたことで、世界の歴史上初めてというわけではない。

参考までにマイナスの利回りといっても、2年債を購入した投資家が国に利子を支払うわけではない。利率つまり利子は変わらないが、購入価格が額面を上回り、償還額との差が損失となり、損失分がもらえる利子分を上回ることになる。

欧州ではECBが政策金利の下限をマイナスにするなどしたことで、国債でもマイナス金利が発生したが、日本では日銀の準備預金の超過分には0.1%の利子がつく。このため、日銀の当座預金口座を持っているところは、準備預金に積めば0.1%の利子がもらえる。無理にマイナス金利の国債を買う必要はないはずである。

ところが、外資系金融機関など日銀に当座預金を持たない金融機関もある。さらに日銀に当座預金を持っている金融機関も、ある一定量の国債を保有しておく必要がある。それは日銀から貸し付けを受けるための適格担保として、さらに短期金融市場やデリバティブ取引の担保として保有しておく必要があるためである。担保であれば、あまり期間の長い国債は適さない。流動性リスクからいえば短期市場のほうが厚みがあり、デュレーションリスクと呼ばれる期間が長いと価格が大きく動くリスクが高まるためである。

もちろんマイナス金利の根本的な要因としては、日銀による国債の買い占めにあることはたしかである。

もうひとつ、今回の2年債にも及んだマイナス金利の背景には、ベーシススワップの影響で円をマイナス金利で運用できる海外投資家の存在がある。つまりマイナス金利でも、さらなるマイナスで資金調達ができれば、利益が生じるためでうる。これは以前にも日本の短期市場で発生していた。

2001年から2006年まで続いた量的緩和の時代にマイナス金利は発生していたのである。このときは日本の銀行が海外から資金調達する際にジャパンプレミアムが付いていた。つまり為替スワップ市場において、一部の外銀がマイナスの金利(円転コスト)で円資金の調達が可能となっていたため、為替スワップ市場で調達した円資金を、無担保コール市場をはじめとする短期金融市場にマイナス金利で放出したケースがあったためである。

今回は当時のようなジャパンプレミアムが付いているわけではないが、今年の夏以降、為替スワップ市場において、ドルの超過需要が強まったことを背景に、円投ドル転コストが上昇し、その分がジャパンプレミアムのようなものとなった。ドルを保有する外国投資家が、為替スワップを通じて非常に安いコストでドルを円に転換できるため、外国投資家は、レートがマイナスの短期国債に対して、マイナスのコストで調達した円を投資したのである。為替スワップによる円の調達コストが大きなマイナスであれば、マイナス金利であっても利鞘は取れる。それが日銀の追加緩和の影響も手伝い、3か月物から1年物におよび、ついに2年債あたりにまで波及したのが、今回のマイナス金利の原因といえる(11月25日の中曽日銀副総裁のパリ・ユーロプラス・フィナンシャル・フォーラムにおける講演要旨を参考)。

日本の投資家によるドル買い需要があり、それがベーシススワップと呼ばれるものに影響を与え、そこにゆがみが生じたことで、ドルを保有する海外の銀行などがマイナスのコストで円を調達できた。ただし、これによりマイナス金利で資金を調達できる海外の金融機関やヘッジファンドなどには限度もある。無制限に円投資ができるわけではなく、制限もある。国内銀行は経理上の処理の問題も含め、マイナスでの運用は当然避けたい。さらに先日、格付け会社による日本国債の格下げも影響してくることもある。

現在のプレミアムからみて、2年より長い期間のマイナス金利もありうるが、それを買える買い手の余力の問題もあり、さらに期間の長い国債の利回りがマイナスになることも、いまのところは考えづらいことも確かである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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