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円安・金利安・原油安の理由

久保田博幸金融アナリスト

12月1日にドル円は2007年8月以来の119円台まで上昇した。同日のアジア時間の取引で、米原油先物が2009年7月以来の安値となる64.10ドルまで下落した。さらにこの日、日本の5年国債の利回りが0.1%を割り込み、0.095%と過去最低利回りに並んだ。

円安と金利安は日銀の異次元緩和によるところが大きい。10月31日の日銀による量的・質的緩和の拡大、つまり異次元緩和第二弾の目的は円安誘導にあったとみられる。その手段は国債の買い入れ額の拡大によるものが中心となっていたことで、国債の需給をさらに逼迫させた。そして、その日銀の異次元緩和第二弾を必要とさせた要因が原油安にあった。

今年7月あたりからの原油安の大きな背景には、米国産のシェールオイルとOPECの戦いにある。きわめて政治的な要因となっているが、原油安はニューヨーク連銀のダドリー総裁に言われるまでもなく、家計の実質所得の大きな伸びにつながる。また航空会社などにとってもプラス要因となる。採算からみてエネルギー関連企業にはマイナスとなっても、国全体でみると特に輸入に頼る日本にとってはプラス要因のはずである。

ところがこの原油安が思わぬ誤算となってしまったのが日銀である。2012年11月のアベノミクスの登場で急激な円安が発生し、アベノミクスの政策を日銀が具体化した。アベノミクスによる円安と原油価格の高止まりが、物価を予想以上に押し上げることになり、異次元緩和が効いたような格好となった。しかしその後、原油価格が下落したことで、物価は上昇幅を縮小してきてしまった。そこで日銀はFRBとの金融政策の方向性の違いも意識して、円安を狙った異次元緩和第二弾を決定した。原油価格の下落分を少しでも円安による物価上昇で補い、あわよくば原油価格がまた上がれば、目標達成に近づくとの皮算用ではなかったろうか。

その煽りを食ったのが日本の債券市場である。11月の日銀による国債買い入れ額は同じ月の国債の発行額を上回っていた。1年以下の金利がマイナスとなり、それが11月28日には2年債にも波及し、2年債としては初めてマイナス金利が発生した。これにより財務省は3日から予定していた個人向け新型窓口販売の2年物国債(347回)の募集をとりやめると発表した。

このマイナス金利の発生要因としては、日銀の中曽副総裁がフィナンシャル・フォーラムの講演で説明をしている。投資家が国債をマイナス金利で購入する例については、銀行が流動性リスクやデュレーション・リスク管理の観点から、一定量の短期の流動資産を持つインセンティブがあることや、国債が日銀から貸し付けを受けるための適格担保であるだけではなく、短期金融市場やデリバティブ取引の担保として最も適しているためであること、さらに次のような要因を指摘していた。

「外国の投資家も、円の金利をマイナスに押し下げるうえで重要な役割を果たしています。2014年の夏以降、為替スワップ市場においては、ドル超過需要が強まったことを背景に、円投ドル転コストは上昇しました。これは、ドルを保有する外国投資家が、為替スワップを通じて非常に安いコストでドルを円に転換できることを意味します。短期金融市場の円金利は既にゼロ近傍にあるため、こうした外国投資家が円を調達する場合のコストはたいていマイナスとなります。外国投資家は、レートがマイナスの短国に対して、マイナスのコストで調達した円を投資しています。為替スワップによる円の調達コストが大きなマイナスであれば、こうした投資戦略でも十分な利鞘を稼ぐことができるのです。」(中曽日銀副総裁の講演より)

このようなニーズも背景に、2年国債の利回りまでマイナスが生じている。それでもマイナス金利の根本的な要因は日銀の大胆な国債買い入れにあることは確かである。

この円安・金利安・原油安のトリプル安はどこまで、というかいつまで続くのか。円安は必ずしも日本経済にとってプラスとはいえない。安倍首相は最近、トリクルダウンという言葉をよく使う。富める者がさらに富めば、貧しい者にも自然におこぼれがくるとの発想であるが、残念ながら円安による恩恵は一部の大手輸出メーカーだけに与えられ、中小企業などではコスト増の影響のほうが大きくなりかねない。ドル円の120円というのが大きな抵抗線となりうる。

金利についても5年債利回りが0.1%という日銀の超過準備につく利子の水準をも下回る異常事態となっている。日本国債の格下げによる直接的な影響はさておき、その格下げ理由となった財政再建への懸念そのものは日本国債のリスク要因であり、今回の超低金利となっている状況はその反動も恐いものとなりうる。

原油価格に関しては、いずれ下落傾向にいったんブレーキが掛かると思われる。今回の原油価格下落により、シェールオイルという物の存在感の大きさを浮き彫りにし、原油価格はこれまでのように高値で安定という訳にはいかなくなろう。これは世界的なディスインフレの要因となり、日本も同様となろう。

円安もドル円の120円あたりが天井となり、原油価格も以前の水準に戻ることがなければ、日銀の物価目標達成は困難になりかねない。来年4月以降は消費増税による影響、特に便乗値上げ分も前年比ではなくなることで、さらにCPIは前年比のプラス幅が縮小する懸念もある。それで日銀がさらなる国債を購入しても効果はなく、むしろ国債のリスクをさらに増加させることになりかねない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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