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異次元緩和で物価は上がったのか

久保田博幸金融アナリスト

アベノミクスの本来の目的はデフレの脱却にあった。それを実行に移したのが日銀で、2%の物価目標を2年で達成するとした。二本目、三本目の矢については個別の数値目標も掲げられてはいたが、その大きな目的がデフレ脱却、つまり物価の上昇にあったことは間違いない。

それではアベノミクスと日銀の異次元緩和により、実際に物価は上がったのであろうか。日銀が目標としていたのが消費者物価指数(コア指数ではなく総合指数)であったため、その消費者物価指数の動きをアベノミクス開始当時から振り返ってみたい。ここでは消費者物価指数は日銀の展望レポートでも見通しに使われ、ベンチマークともなっている生鮮食料品を除いた数値(コアCPI)で確認することにする。

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(データは総務省と日銀のサイトより)

コアCPIは2008年7月に前年同月比で2.4%の上昇となり、2%台に乗せた。2%台乗せは消費税率引き上げにより一時的に上昇率がかさ上げされていた1997年4月から1998年3月を除くと、1992年6月の2.5%以来で約16年ぶりの高い水準となった。原油価格や穀物価格などの上昇による石油製品や食料品の値上がりが主要因となっていた。

ところが2008年9月のリーマン・ショックによる世界的な金融経済ショックを背景に物価は急低下することになる。コアCPIは2009年8月にはマイナス2.4%にまで落ち込むことになる。その後のCPIはじりじりとマイナス幅を縮小してきた。

アベノミクスが登場した2012年11月にコアCPIはマイナス0.1%となり、日銀の異次元緩和直前の2013年3月にはマイナス0.5%に低下していた。そして日銀が異次元緩和を決定した2013年4月はマイナス0.4%であったが、その後5月にはやくもゼロ%になり、そのままコアCPIの前年比はプラス幅を拡大させ、2014年4月にはプラス1.5%まで回復した。これを見る限り、このペースでいけば物価目標達成も可能なようなペースとなっていた。ところが、ここからコアCPIはプラス幅を縮小させ、2014年10月には前年比でプラス0.9%となった(2014年4月からの消費増税による影響は除く)。

コアCPIの前年比と日銀のマネタリーベースの伸び率を比較すると、2013年あたりから綺麗に相関しているように見える。これを見る限り、アベノミクスのリフレ政策を実行に移したことで、本当に物価は上がってきたように見えてしまう。しかし、ここにはいくつか問題が存在する。

リフレ派の間でも、金融政策の効果が出るには半年以上のラグがあるしている。ただし、アベノミクスそのものは2012年11月に登場していたことで、ちょうど半年のラグを持って物価が上昇してきたとの見方もできる。「期待」を重視するリフレ派にとり、アベノミクスの登場だけで期待が先行したとの見方もできようが、果たしてそううまくいっていたのであろうか。

2013年4月の異次元緩和あたりからの物価の上昇要因については、そのかなりの部分は円安と原油価格の上昇により説明が可能となる。その意味では2012年11月のアベノミクスは円安を招き、物価高を演出したと結論づけられるかもしれない。輸入物価上昇と原油高がミックスした物価上昇は、いわゆるコストプッシュ型のインフレとなり、我々の生活にはマイナスとなる。景気の回復により雇用市場も回復し賃金も上昇した結果として、物価が上がるというのが、アベノミクスの本来の目的ではなかったのか。

しかし、円安の効果が薄れ、原油価格の下落とともにコアCPIの前年比は縮小し、その結果、日銀は2014年10月31日に量的・質的緩和の拡大、つまりQQE2を実施せざるを得なくなった。原油価格の下落はコントロールできない以上、米国の金融政策との方向性の違いによる円安ドル高を招いて、物価を押し上げようとした。しかし、QQE2で物価が再び上昇するという保証はない。これもまたマーケット次第となるため、日銀が大量に国債を買い込むことのリスクに果たして見合う政策であったのかは疑問が残る。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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