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日銀の物価予測が展望から願望になる懸念

久保田博幸金融アナリスト

10月31日の日銀の金融政策決定会合では、経済・物価情勢の展望(展望レポート)が公表される。この展望レポートの発表があるためか、4月と10月の日銀の金融政策決定会合は月に2回も開催される。果たして2回も開催する必要があるのか。1回にしてその際に展望レポートも発表すれば良いように思う。

それはさておき、この展望レポートは願望レポートと比喩されることがあるが、今回の展望レポートはまさにそのようなものとなる可能性がある。10月28日の日経新聞朝刊では、この展望レポートにおいて2014年度、つまり今年度の成長率見通しを4月時点での見通しである1.0%から0.6%に下方修正する見通しと伝えていた。

これは4月の消費増税後の景気回復がもたついているためとされた。ただし、増税の影響は徐々に和らぎ、2015年度の見通しの1.5%、2016年度の見通しの1.3%は維持する見込みだそうである。

また、物価の見通しについては「おおむね」現状維持となる見込みで、2014年度のコアCPIは前年比プラス1.3%、2015年度はプラス1.9%、2016年度は2.1%に据え置かれるようである(いずれも消費増税の影響を除いたもの)。ただし、2014年度の物価見通しについては下方修正を議論するとの見方も出ている(ロイター)。

今年度の成長率見通しを下方修正したことで、景気回復が物価に与える影響はその分緩和されよう。さらに物価の上昇要因となる円安についてもドル円は10月はじめに110円台をつけてはいたがそれ以降はピークアウトし、ドル以外の通貨に対しては9月あたりでいったん円安はピークアウトしている。

さらに物価の大きな上昇要因となっていた原油価格が、6月あたりから大きく下落してきている。

日銀の黒田総裁は消費者物価指数のプラス幅が縮小しても1%を割ることはないと明言していたが、これも怪しくなってきた。8月のコアCPIは前年比プラス1.1%と1.0%に接近している。31日に発表される9月分についてはぎりぎり1%台は維持されるとみられるものの、10月以降は1%割れの可能性もありうるのではなかろうか。

日銀の関係者からの話としても「年度後半の物価上昇撤回を検討」とか「関係者の1人は、インフレ率が1%を割り込むことはあり得ると」の発言も伝わってきている。むろん、日銀関係者が誰なのかはっきりしていないが、そのような見方をする日銀関係者がいたとしてもおかしくはない。しかし、政策委員を含めて本音ではどのように考えているのか。現状の外部環境を見る限り、物価の上昇に関して、決して楽観視できる状況とは思えない。

原油価格の下落によるガソリン価格の引き下げなどは消費者にとっては良いことであり、これは景気にとってもプラスとなるため歓迎すべきことである。それでも物価は何としても2%にしなければ日本経済は良くならないものなのであろうか。

そもそも国債を大量に買い続け、1年以下の金利は一部マイナスとなり、日本の長期金利も低位安定が続いているが、消費者物価は今年4月に1.5%をつけてから低迷が続いているのはどうしてだろう。

これがもしアベノミクス以前であれば、日銀の緩和が足りないとされていた可能性がある。それで黒田日銀は思い切った異次元緩和をしたのだが、それでも結局、物価を金融政策でコントロールすることに無理があることが次第に明らかになりつつある。

いやいや2012年4月の異次元緩和あたりからのCPIの上昇は顕著であり、前年比マイナスからプラスに転じ、1.5%まで上昇したではないかとの意見もあろう。

このCPIの上昇こそ、その要因をはっきりさせるべきかと思われる。急激な円安と株高、世界的リスクによる景気の回復あたりの効果が、いくつかの物価下落要因の剥落で自然に回復するところにプラスαが加えられただけではなかったのか。

それとも期待がこの物価上昇に大きく影響していたというのであれば、今年4月以降はその期待がはげ落ちてしまったというのであろうか。そうであるとするならば、さらなる異次元緩和が必要になりそうだが、さすがにそれをしてしまうと国債市場はどうなるかはわからない。

いずれにしても今後の物価の動向について、日銀としては楽観的には展望できない状況にあるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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