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ディーリングにおける逆張りの難しさ

久保田博幸金融アナリスト

「これまで逆張りが目立った「ミセス・ワタナベ」は、ドル先高観を背景に直近では押し目買いで存在感を見せるようになっている。利益確定のドル売りを進める海外勢との対決も注目される」とのロイターの記事があった。

そもそも「ミセス・ワタナベ」が何者であるのかが良くわからない。FXなどの取引をしている日本人の投資家というか投機家というべきか、その女性たちを総称してのものなのか。それとも日本人の個人投資家の総称なのかも良くわからない。

それはさておき、私は1986年から2000年あたりまで債券ディーラーという仕事をしていた。ただし、大きな資金の運用を行っているのではなく、会社の資金を使ってのいわばミセスワタナベのような仕事をしていた。数十億単位で債券先物や現物債の売買を日計り、つまりデイトレード主体に行っていた。ポジションを持つのはせいぜい翌日まで。主に日中の値動きで値ざやを取る仕事であった。いわば債券版の会社の資金を使ってのミスター・ワタナベみたいな存在であった。

1985年に銀行の国債のフルディーリング、つまり持っている国債を使っての売買が可能となり、この年には国債のヘッジを目的とした債券先物も東証に上場された。先物は少ない資金で大きな取引が可能となり、売りからも買いからも入れる。ここで債券のディーリング環境が整った。為替市場では1985年のプラザ合意後の大きな変動もあり、こちらも市場が揺れ動き、債券市場も私のようなディーラーが一斉に出てきたのである。私は1986年10月から債券ディーラーとなった。

当時の日本の債券の値動きは、ここにきてのドル円の値動き以上のものであった。また、大手証券や銀行などが数百億から数千億円単位で動かすこともあるなど、規模も非常に大きくなり、腕さえあれば儲けられるチャンスがあったのである。

そのなかで私は14年間、ディーラーを続けてきたのだが、特に上手なディーラーだったわけではない。年間数億円も稼ぐディーラーではなかったが、少なくとも年間での売買損を発生させたことはなかった。そこそこ稼いで生きながらえていたのだが、それをもとに書いた本が「マーケット・サバイバル」であった。

マーケット・サバイバルにも書いたが、デイトレードのような短期勝負のディーリングで、よほど相場観に自信がある、いわば天才型のディーラーでない限り「逆張り」はリスクが高い。流れにうまく乗って飛び降りる順張り型のほうが儲けやすい。相場の流れの変化を瞬時に見分けることはかなり難しい。トレンドが変化したかどうかを見分けるのにも経験ばかりでなく、感性も求められる。さらに損切りも早くできるなど、思い切りの良さも必要となる。

そのようななかでの逆張りという手法は、普通のディーラーであれば、損失を拡大させるだけとなる。自分の相場観に頼るばかりに損切りが遅れ、相場の変化に対して自分のポジションによってバイアスが掛かり、流れに乗れず、適切な判断ができなくなる。

これに対して順張りは、いったん大きな動きを始めたと感じたときに、多少遅くても乗っかり、ある程度の利益が乗ったところで降りればよい。底値で買って天井で売るなんて芸当は天才ディーラーでも難しい。順張りで儲けた利益を、もみ合相場などで失わないように、小動きのときは自制し、自分にあった流れがくるのを待つ。そんなディーラーであれば大儲けは無理でも、大きな損失も出さずにサバイバルが可能となる。

ミセス・ワタナベはいったいどのようなディーラーなのかはわからない。しかし、本当に儲けられるディーラーは債券であろうが、株であろうが、為替であろうが、ほんのひと握りである。プロ野球選手でも年収が億円単位であるのはひと握りの選手であろう。多くのミセスワタナベが生き残りをはかるのであれば、逆張りより順張りのほうが生き残る可能性は高いのではないかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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