市場をうまくコントロールしたFRB

9月16日、17日に開催されたFOMCでは、予想されていたとおり、住宅ローン担保証券(MBS)と長期国債の買い入れ額を100億ドル縮小し、月額150億ドルとした。FRBはいわゆるテーパリングを10月に終了するとしており、次回10月28日、29日のFOMCにて月額150億ドルの資産買入れをゼロにし、量的緩和策を解除すると予想される。

量的緩和政策が解除されるとなれば、次に控えるのがゼロ金利政策の解除、つまり利上げである。利上げの時期を巡っては市場ではかなり先になるとの見方が強かった。これに対してFRBのFF金利の見通しは市場観測より早めに利上げが実施される可能性を示していた。市場では元々、ハト派とされるイエレン議長が利上げについてはかなり慎重との見方を持っていた。しかし、イエレン議長は経済動向次第ながら、利上げの可能性を示唆しており、市場も次第に早期利上げの可能性を意識し始めてきた。

このため、9月16日、17日のFOMCでは、テーパリングの10月完了を見据えて、利上げの準備に取り掛かるのではないかとの見方も強まってきた。そのひとつの作業として、FOMC後に発表される声明文のなかの、テーパリング終了後もゼロ金利政策を「相当の期間にわたり」維持するとの文面が修正されるのではないかとの観測が出てきた。これが米国株式市場を不安定にさせ、債券市場もやや動揺を示してきた。仮に今回、この「相当の期間にわたり」との部分が削除されるなり、変更されるなりすれば、FRBの利上げ観測が急速に強まり、市場が動揺し米国の株式や債券、さらにはドルが急落するような事態も想定された。

現実にはこのタイミングで、相当の期間にわたり」との部分を削除する必要性は感じない。10月以降に削除なり変更なりしても問題はないのではと個人的には見ていた。しかし、マーケットはこの部分に注視し、相場変動に備えるような格好となった。ここに現れたのが、FRBの伝達師ともいえるウォール・ストリート・ジャーナルの米連邦準備理事会(FRB)担当であった。

FRBはこれまでマスコミを通じてのリークというか情報伝達を行っていたとの見方がある。相場に大きな影響を与えないようにするため、もしくは市場の反応を見るため、市場に事前準備をさせるために行っているのではないかとの観測は、かなり昔からあった。その担当者は、ウォール・ストリート・ジャーナルのFRB担当とされていたのである。

その担当であるジョン・ヒルゼンラス記者が、妙な動きを見せた。本来であれば記事に書いても良いはずなのに、速報性の強いウェブサイトのビデオを使って、事実上のゼロ金利政策を維持する期間について、FRBは声明で表現を変更はするものの従来の「相当の期間」との文言を基本的に維持すると指摘したのである。

もちろんFRDウォッチャーとして個人的な予測を述べたに過ぎないように見えるかもしれないが、自信たっぷりに、しかもFOMC期間中なので速報性を意識してのウェブサイトのビデオを使って、過去にFEDの意向を事前に伝えていたウォール・ストリート・ジャーナルのFRB担当者がこのようなコメントをしたのである。当然、市場はこれに反応した。

ただし、利上げについては当然視野に入る。利上げに向けての準備として声明文、もしくはイエレン議長の会見における表現のなかに、何かしらの但し書きが加えられるであろうことも、ヒルゼンラス記者は示唆していた。昨日のFOMC後に発表された声明文、及びその後のイエレン議長の会見はまさにそうなっていた。

イエレン議長は、われわれの仕事は、政策スタンスは指標次第という点において、できるだけ明確に市場と対話するよう努めることだ。またそのように努力すると約束するとコメントした。さらにイエレン議長は相当な期間という約束には条件が伴うとの発言もあった。つまり相当な期間が意外に短い可能性を示したと言える。

このウォール・ストリート・ジャーナルのFRB担当を使った相場の鎮静化は功を奏した。それどころか、結果として17日のダウ平均は過去最高値を更新し、米長期金利の上昇は小幅に抑え込み、ドル円は108円台に上昇したのである。結果から見る限り、うまくやったと言える。イエレン議長は市場の動揺をうまく抑え込んで、さらに利上げの可能性も浸透させてきた。このあたり、テーパリングを示唆して相場が急変してしまい、その時期を先延ばしせざるを得なかった前任者の教訓も生かされていたのかもしれない。

FRBはゼロ金利解除に向けたロードマップは当然用意しているとみてよいが、そんなものは存在しないと主張し続けるであろう。しかし、テーパリング実施もほとんど市場には影響を与えなかったように、徐々に利上げの可能性を浸透させ、現実に利上げが行われても市場は無反応といった状況を作りたいのではなかろうか。むやみに市場を動揺させる必要はない。金融緩和はサプライズが重要で、金融引き締めは織り込ませることが重要という、当たり前の政策をFRBは目指しているようである。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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