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日銀の物価目標はCPIの総合指数と再確認しました

久保田博幸金融アナリスト

8月7日、8日の日銀金融政策決定会合の議事要旨が9月9日に公表された。このなかで次のような表記があった。

「委員は、金融政策運営に関して月々の消費者物価(除く生鮮食品)の数字に注目が集まる傾向があるが、物価の基調を的確に把握することが重要であるとの認識を示した。この点に関連して委員は、「物価安定の目標」は、消費者物価の総合指数で定義している、物価の予測に当たっては、一時的な変動要因の影響を除いた基調的な動きを捉える必要があるため、展望レポートにおける物価見通しは、基調的な物価の動きを比較的よく表している「除く生鮮食品」指数を用いている、ということを確認した」

日銀の物価目標を決定したのは2013年1月22日、白川総裁の時であった。この時の公表文には「日本銀行は、物価安定の目標を中心的な物価指標である消費者物価の前年比上昇率で2%とすることとした」とある。このときは2012年2月に導入した「中長期的な物価安定の目途」を点検し、その結果、「物価安定の目標」を新たに導入するとした。となれば、「物価安定の目途」の物価とは何かということになる。

2012年2月の物価安定の目途の物価指数としては、「国民の実感に即した、家計が消費する財・サービスを対象とした指標が基本となり、中でも、統計の速報性の点などからみて、消費者物価指数が重要である」としている。確かに消費者物価とあるが、消費者物価(除く生鮮食品)とはしていない。

これに対して経済・物価情勢の展望(展望レポート)での日銀の政策委員による物価の予想は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比となっている。黒田日銀総裁の会見などでも「物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、1%台前半で推移しています。」(9月5日の記者会見)といったように、物価のベースは消費者物価(除く生鮮食品)を念頭に置いてコメントしている。このため、日銀の物価目標は消費者物価(除く生鮮食品)ではないかと勘違いされている可能性があり、日銀は改めてここで念を押してきたものと思われる。

私も物価安定の目途の物価が総合指数であったとの認識は持っていたものの、2013年4月の量的・質的緩和における物価目標は消費者物価(除く生鮮食品)、いわゆるコア指数との認識を持ってしまっていた。このときの物価目標が総合からコアに変化したわけではない。そのあたりを今回の議事要旨で再確認したものと思われる。ちなみに今年7月の消費者物価指数の総合は前年比プラス3.4%、コアは同プラス3.3%である。ここには消費増税による影響が2.0%程度あると日銀は試算しているが、総合とコアの違いはわずかであることも確かである。

今後も物価の話をする際はコア指数、目標のことを話す際には総合としっかり区分けする必要がある。その消費者物価指数の秋以降の動きが注目されているが、ここにきて円安ドル高の動きが気になる。異次元緩和というより、アベノミクス後の市場参加者の予想を超える物価上昇の要因の多くは、円安によるものとみられている。今回、106円台に乗せてきた円安の動きは、さらに加速するとの見方がある。どの程度まで円安が進むかは予想は難しいが、円安次第では日銀のシナリオ通りに、消費者物価指数の総合ベースで前年比2.0%(消費増税の影響除く)の可能性もありうるか。だからこそ、日銀の黒田総裁は円安容認のような発言をしたのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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