進撃のドイツ国債、長期金利は過去最低
今年3月、子どもの本のノーベル賞と称される国際アンデルセン賞・作家賞を受賞した上橋菜穂子さんの代表作「守り人シリーズ」が実写ドラマ化されるそうである。我が家には「守り人シリーズ」が全巻揃っており、一番目の付くところに置いてあるぐらいのファンであり、3年かけて放映されるNHKドラマにいまから期待している。
実写化といえば、一時ブームを起こした「進撃の巨人」も実写化されるそうである。「守り人シリーズ」は日本を含めた東洋らしきところが舞台となっているが、「進撃の巨人」はドイツらしきところが舞台となっている。そのドイツの国債が進撃してきた。10年債利回りが過去最低を更新したのである。
7月29日の欧州の債券市場では、ドイツの10年債利回りが一時1.109%まで低下し、2012年夏につけた1.126%を割り込み史上最低利回りを更新した。2012年の夏といえば、ユーロの信用不安が渦巻いていたころであり、リスク回避の強まりにより、比較的安全な資産とされるドイツの国債が買われていた。しかし、今回はリスク回避によるものではない。その証拠に、この日はスペインとイタリア、アイルランドの10年債利回りも過去最低を記録していたのである。スペインとイタリアの10年債利回りはそれぞれ2.46%と2.64%、アイルランドの10年債利回りは2.17%に低下した。ちなみにこの日の米10年債利回りは2.46%であった。
単純に長期金利だけでその国の安全性とかを比較はできないが、一時あれほど懸念されていたスペインの国債の利回りが米国債に並ぶという事態を誰が想像できたろうか。ポルトガルの国債については、BESの問題が再燃するなどして売られたものの、ユーロ圏の国債は総じて買われ、年内の利上げ観測が出ている英国の国債も買われるという事態になっていた。
ユーロ圏の国債が買われた背景としては、ECBによる金融緩和策の影響が大きい。その緩和策の要因となっている物価や景気の低迷も影響していよう。31日にはユーロ圏の7月の消費者物価指数の発表が予定されるが、この数値如何では追加緩和の可能性も市場では意識されていたようである。
ただし、多少CPIが悪化したとしても、簡単にはECBは追加緩和には動かないと思われる。日銀の異次元緩和ほどではないが、6月のECBのパッケージ緩和策はとりあえず出せるものは出した格好であり、日銀と同様に当面の間はその効果を見極めたいと思われるからである。それでも市場からは追加緩和期待が出てくることも予想され、ECBもその可能性を否定してくるようなことはないと考えられる。
欧州が日本と同様のデフレとなりつつあるのであろうか。これについて見方は分かれている。ECBは日本のようなデフレに陥ることはないとしているが、ユーロ圏の各国の長期金利の居所を見る限り、デフレがかなり意識されているようにも思われる。
ユーロ圏の国債がバブル化していることは確かであろうが、日本の長期金利も0.5%近くの推移が続くなど、そのバブルがすぐに弾ける様子もない。ECBのマイナス金利を含めたパッケージ政策は長期金利の低下を促した。ユーロも下落基調となり、ECBの思惑通りの動きとなっているが、これが物価や実態経済にどれだけ影響を与えられるのか。
ここからは日銀同様にECBは好環境が続くことを祈っていると思われる。それぞれ追加緩和はかなりの困難が待ち受けているためである。もちろん緩和手段はあるものの、それを使うと日銀は異次元の魔法が解けてしまう懸念があり、ECBはマイナス金利と量的緩和という相反する政策を打たざるを得なくなる。
いずれにしても、日欧の国債は買われる環境が整っており、そう簡単には崩れることは考えづらい。中央銀行の金融緩和が効いて国債が買われる構図ではあり、ドイツを含めユーロ圏の国債はさらに進撃を続けてくる可能性がある。
進撃の巨人に出てくる巨人は人類が生み出した魔物であった。現在の中央銀行の超緩和策もある意味、魔物を形成しているようにも思えてしまう。