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日銀の出口、ハードランディング編

久保田博幸金融アナリスト

以前に日銀の出口に向けて、ソフトランディングのケースを考えてみたが、今回はハードランディングのケースを予想してみたい。日銀の追加緩和のケースも可能性としては残るが、日銀の想定通りの物価上昇における出口政策を今回も想定している。

日銀が目標としている消費者物価指数は、今年の夏場に向けて前年比1%前半まで低下したが、秋以降はエネルギー価格の上昇などから、日銀の想定通りの上昇となり、来年早々1%台後半に上昇したとしよう。4月には2.0%の達成の可能性が見えたきた。英国はすでに利上げを行っていることが予想され、米国ではテーパリングが終了して利上げの準備が進み、日銀の出口に向けた動きが市場では意識されるようになった。

日銀のテーパリングについての憶測も流れてきた。過去に日銀は国債買入の額を減らしたことはないものの、市場ではどのような事態が発生するのかを予測することができないため、とりあえず債券先物でのヘッジ、もしくは現物債のポジションを減らすような動きが出てくる可能性がある。利上げとなれば、本来イールドカーブはフラット化するが、今回は利上げよりも日銀の国債買入の動向そのものが焦点となり、新発債を7割も買い入れていた存在がなくなることに対する恐怖心がマーケットに蔓延し始める。

日銀の巨額買入がなくても国債は安定消化されていたが、すでにマーケットは日銀の大量の国債買入ありきの状態に陥っており、その買入が少しでも減少するとなれば、減少される年限の国債への売り圧力に繋がりかねない。日銀は市場への影響を少なくするため、テーパリングを行うとしても、そのペースはFRBなどに比べても緩やかなものとする可能性が高いが、減るという事実が市場参加者の不安を助長させることになる。  長期金利が0.5%台から1.0%台あたりまで上昇したところで、それほど市場への影響はないかもしれない。しかし、今後の長期金利は物価が2.0%という水準が意識され、日銀も正常化の道に進むのであれば、長期金利も2.0%を超えてきても何ら不思議ではないとの認識も強まろう。

しかし、動かないマーケットを長らく経験してきた市場参加者たちは、長期金利の動きの大きさについていけなくなる可能性がある。債券先物ではサーキットブレーカーが何度も発動し、ややパニック的な動きとなるかもしれない。投資家も長期金利の上昇で運用利回りの向上が見込めるが、それ以前に保有国債の損失が頭を過ぎる。上司からは長期金利上昇の備えはしていなかったのか、このような事態は予測していたはず、だとの結果論的な声も飛び、ここで売るべきではないと考える現場でも何かしらの手段、つまり価格変動リスクを落とす動きを強めることが予想される。そのような動きを察知したヘッジファンドが我先にと先物やオプションで債券相場を売り崩す。こうなると負の連鎖が起こりうる。

2010年のギリシャなども国債暴落の際のひとつの例となる。売り込まれたところに格付け会社の格下げがさらに火に油を注ぐ。国債急落や格下げで日本の財政悪化がさらにクローズアップされ、何故、これまで積極的な財政健全化策を講じなかったのかと政府への批判も集まろう。

さらに債券市場では、過去15年程度経験してこなかった長期金利の2%超えという事態に対処しなければならない。15年前とは国債残存額が大きく違うため、過去の相場経験すら生かせない事態が発生する可能性がある。このような事態が発生した場合は落ち着きを取り戻すまで、様子を見ざるを得なくなろう。

ただし、国債に大きな価格変動が起きたとしても、それほど長く続く事も考えづらい。これを機会に財政再建への道が開ける可能性もある。しかし、対処法を誤れば、本格的な日本国債の暴落も招きかねない。そのひとつの要因として、日銀による国債価格急落の歯止めとしての国債のさらなる買入でがある。これは財政法で禁じられている国債引受とあらためて認識されてしまいかねず、国債への信認低下に繋がり兼ねない。需給バランスの崩れなどでの国債利回りの上昇ではなく、国債への信認失墜による国債暴落は、今度こそ手が付けられなくなく懸念が出てくる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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