日銀の国債買入の再変更の問題点
日銀は18日に「当面の長期国債買入れの運営について」とのベーパーを発表した。これは日銀による国債買入における修正を行ったものである。同様のペーパーは5月29日にも出されており、それから一か月も経たずに修正してきたことになる。
昨年4月に決定した日銀の量的・質的緩和政策による大胆な国債の買入は数字並べを意識するあまり、かなり矛盾したものであった。コアCPIの「2%」という物価目標に対しては「2年」程度の期間を念頭に置いて、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を「2年間」で「2倍」程度とし、毎月の国債買入額もグロスで2倍、長期国債の平均残存年数を現行の「2倍」以上とした。これはまるで、英国イングランド銀行の買入総額を決める方式とFRBの毎月の購入額をミックスさせ、さもすごそうな国債買入に見せようとしたあまり矛盾が生じてしまった。
日銀の国債保有額を2倍にするため、毎月の国債買入も2倍にし、さらに平均残存も2倍にするということは、短い期間の国債から、より期間の長い国債を買い入れることになる。短期債、たとえば1年債であれば1年後に償還がくるため、その償還分も買入額としてカウントできるが、それが40年債だと償還は40年後となる。つまりより残存の長い国債を一定量買い続けるとなれば、保有総額なり平均残存期間、もしくは毎月の購入額の微調整が必要になるのである。
これもあってか日銀が昨年4月4日に質的・量的緩和を決定してから、具体的な国債買入の内容が示されたのは5月30日とひと月以上も経ってからであった。その昨年5月30日に出されたものと、今年5月29日の修正分、さらに6月18日の修正分を比較してみたい(回数×ロット億円)。
残存期間1年超3年以下、2×1100、2×1100~2000、2×1100~2500
3年超5年以下、6×5000~7000、6×5000~7000、6×5000~7000
5年超10年以下、6×4500~6000、6×4500~6000、6×4500~6000
10年超、5×2000~3000、5×1500~3500、5×1300~3500
一見、あまり変わっていないように見えるが、それとなく修正されているのは残存期間1年超3年以下の上限、10年超の下限であることがわかる。10年超のいわゆる超長期債の購入額を減少させて、その分短期債の買入を増やそうとしている。
さらに今回、残存期間10年超については、残存期間の区分を細分化して同時にオファーすることがあるとして、6月23日以降に行う最初のオファーは、残存期間10年超25年以下 1000億円、残存期間25年超300億円とする予定とした。
日銀の保有する国債の銘柄別残高は5月30日集計分から6月10日集計分の間、40年7回債の日銀保有残高が1759億円増加していた。つまり5月の買入見直し後の10年超のオペ3回で約3000億円のうち、40年債の新発債が1759億円も占めていた計算となる。このため残存25年以上のものについて、特に制限を加えたということになろう。
19日日経新聞の記事には「市場参加者の少ない40年債の価格をつり上げ、日銀に売却するトレードが一部で盛んだった」との国内証券ディーラーによるコメントも掲載されていた。このような動きが今回の見直しの背景にあった可能性も否定できない。
これを受けて19日の債券市場では超長期債に売りが入り、30年債は5.5毛甘、40年債は6毛甘に後退した。10年債は前日比変わらず、先物は7銭高となっており、まさに不意を突かれてしまった様子がうかがえる。しかし、日銀としては大胆な国債買入を提示してしまったときに、このような事態が発生することも想像できていたのではなかろうか。
一部の業者が仮に価格操縦のようなことをしていたとすれば、それはそれで問題であり、日銀はそのような動きを封じるために急遽、再修正を行った可能性もある。しかし、今回のように国債の買入の金額はいつでも簡単に、いきなり動かせるとなれば、市場にはそれに対する不透明感を生じさせることにもなる。黒田日銀総裁は市場と密接な対話をしながら国債買い入れている、とコメントしたようだが、日銀と市場の不協和音はむしろ高まってくる可能性がある。